舞台芸術と現代アートに見るパフォーマンスアートの位置付け

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こんにちは、演劇とダンスのパフォーマーの千葉です。

”現代アート”と聞いて皆さんはどんな作品を頭に思い浮かべるでしょうか?
現代アートと一口に言っても作品の形式は絵画、彫刻、映像、インスタレーションと多岐に渡りますが、演技や朗読、ダンスなどのパフォーマンスが組み込まれていたことはないでしょうか?こういった身体で作品を構成するアートは総称してパフォーマンスアート(英:performance art)と呼ばれています。振付家・ダンサーのダミアン・ジャレと彫刻家の名和晃平との共作「VESSEL」、アーティストグループのDumb Type(ダムタイプ)が多くのメディアに掲載され、ご存知の方も多いと思います。これらの作品を見ると現代アートなのかダンス作品なのかと困惑される方も多いのではないのでしょうか。今回はそんな混乱の種を図解を交え、舞台芸術と現代アートとは何かを再確認しながら解説していきます。なお、一個人の考え方であり、先述した通り見方や要点の置き方によって作品のジャンルは変わる可能性があります。これからの説明が万国共通・絶対的なものではないことをどうぞご承知ください。


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-パフォーマンスアート

初めにパフォーマンスアートに似た言葉でパフォーミングアーツ(英:performing arts)という言葉がありますが、これは舞台芸術や上演芸術を指す英語です。日本国内では演劇的要素もダンスなどの身体的な要素も含む舞台芸術を背景に持った作品を主に指す傾向があるように見えます。どちらも観る側からすると多要素を持つ芸術作品として捉えられるので、今回は “パフォーマンスアート” に呼び方を統一しようと思います。このパフォーマンスアートという言葉が使われ始めたのは1960年頃からで、1950年代に芸術家のアラン・カプローが造語した言葉 “ハプニング”(絵画、詩、音楽、ダンス、演劇の要素を組み合わせたもの)を指していました。その後、反芸術的な芸術運動、ダダイズム のアーティストに洗練され世界的な美術用語になりました。

パフォーマンスアートには以下の6つの特徴があります。
1、ライブ 
2、記憶に残る 
3、実験的 
4、観ることで価値が生まれる
5、様々なソースからのインスピレーション 
6、様々なパフォーマンスが残る 

では次に舞台芸術と現代アートは何を指しているのか再確認していきましょう。

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-舞台芸術

舞台芸術とは劇場や空間上で行われる芸術であり、絵画や彫刻のように形を残せない無形芸術であると同時に時間の経過の中で生まれる変化を表現する時間芸術であるとも言えます。舞台芸術の例を挙げると歌舞伎、人形浄瑠璃、能、狂言、バレエ、ダンス、演劇、ミュージカル、オペラなどがあります。
さらに演劇に特化して言うとこの中でも劇場の大きさや主催団体によって小劇場演劇、商業演劇、プロデュース公演、劇場主催公演、劇団公演と分けることができます。また作品の形式や要素によってリアリズム演劇、不条理演劇、パフォーミングアーツ、音楽劇、アングラ、2.5次元などと分けることができます。

-現代アート


現代アートという名前は多種多様になり今や語ることは困難になってきています。その中で現代美術、つまり、現在生きている作家が行う美術教育をバックグラウンドにしたジャンルを見ていこうと思います。美術は視覚芸術のことを指し、視覚によって捉えることができるよう制作された造形芸術を指します。
例を挙げると、絵画、彫刻、版画、工芸、ビデオアート、インスタレーションアートなどがあります。更に細かな分類分けをすると、絵画なら油絵、日本画、水彩画、点描画、木炭画などがあります。
戦後に美術業界で見られる作品などを現代アートと指すこともあれば現代の社会情勢・問題を反映させたり問題提起批判を感じさせる作品だけを指すと言われています。その側面では現代アートは表現された問いと鑑賞者との対話によって作品は完成されるとも言われます。

-パフォーマンスアートの位置付け

それではパフォーマンスアートは舞台芸術と現代アートのどちらに当てはまるのでしょうか?

上の図を見ていただきたい。左のオレンジ色の円が舞台芸術を表しており、右の水色の円が現代アートを表しています。そして、その2つの円が重なっていてピンクの線で囲まれた部分がパフォーマンスアートです。パフォーマンスアートは舞台芸術と現代アートの両方の要素を含んでいると共にどちらでもあると言えます。

アーティスト目線からですと、舞台芸術か現代アートかどちらに分類するかは作者次第であると私は考えています。この中道の立ち位置は、舞台芸術と現代アート両方の分野の展示(演劇祭や美術祭)に進出でき、新たなジャンルとコラボレーションしやすいことも強みと言って良いでしょう。

今回は複雑になるので省きましたが、この図には建築、服飾、音楽、文学、などの分野もこの円に重なることもあるでしょう。そのわかりやすい例を挙げると、冒頭で紹介した「VESSEL」の作品クレジットを見ると普段は一緒には活動していない各ジャンルのプロ(振付、舞台美術、音楽、照明、音響、舞台監督とネットには記載があるが他にも衣装やヘアメイクなども想像ができる)が集まり共作しています。

-パフォーマンスアートとフェスティバルの紹介


ここからは具体的にパフォーマンスアートはどのようなものがあるのかということで、幾つかの作品とパフォーマンスアートのフェスティバルを紹介します。

・ベッドイン Bed-In (1969) ジョン・レノンとオノ・ヨーコ アムステルダム

Photo: Eric Koch/Anefo

ベトナム戦争の中、オノ・ヨーコジョンレノンによる平和活動パフォーマンス。ホテルの1室にマスコミを呼び、彼らに囲まれながら、ベッドに寝たままこもりました。
オノ・ヨーコは前衛芸術運動のフルクサスに参加していました。ジョン・レノンがオノ・ヨーコを知るきっかけになったのも『No.4 』という365人の道ゆく人のお尻のクローズアップした映像が連続した作品でした。

・草間ハプニング Kusama Happening (1965) 草間彌生 ニューヨーク

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いつも派手なおかっぱ頭に毒々しい色の服を纏う草間彌生。かぼちゃのフォルムをした作品が有名ですが、多くのハプニングを行なっていました。思春期を太平洋戦争の戦果で過ごした草間彌生は反戦と平和を訴え続けてきました。2023年1月にはルイヴィトンとのコラボレーションのポップアップストアがオープ予定。草間彌生をモデルにしたインスタレーションが設置されるようです。

・TRANSVERSE ORIENTATION (2021)ディミトリス・パパイオアヌー Dimitris Papaioannou

引用 Photo:Julian Mommert

アテネオリンピックの開閉式の演出を務めた、ギリシャの振付家演出家のディミトリス・パパイオアヌーは10代の頃にアテネ美術学校に通いギリシャの署名な画家に師事していました。

こちらの作品は彩の国さいたま芸術劇場とロームシアター京都で上演された作品でコンテンポラリーダンスです。登場する者たちはメッセージを持っているように思われコンセプチュアルアートとしても機能しています。また舞台の終盤に屋台崩し(舞台の建物が崩れたり倒れたりする場面を見せる仕掛け)があり、建築との関係を考えさせてくれます。

・塩田千春展 「鍵のかかった部屋 」×平原慎太郎「のぞき/know the key」

詳細

インスタレーションアーティストの塩田千春の作品の作品の中でダンサーたちが踊るパフォーマンス。
通常では形に残らないのがパフォーマンスですがこちらの作品は映像で作品の様子が伺えます。生ではもう観ることができないかも知れないのでとても貴重です。


それでは次に、実際にパフォーマンスアートが観れるおすすめの国際的なフェスティバルを列挙します。

・International Festival of Performance Art

Taiwo Aiyedogbon, Fragile Space, Lagos Nigeria 2022. Photo: Father Fab.

・International Performance Art Exhibition in Sao Paulo 

 International Performance Art Exhibition in Sao Paulo – “SerformanceP”

・瀬戸内国際芸術祭

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・東京都芸術祭

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-終わりに

実際に見るまで何が起こるかわからないパフォーミングアート。今まで知らなかったものや技術に出会えるチャンスがそこには潜んでいると思います。よくわからない分野は自分が面白いと思えるか不安かも知れません。まず初めは自分が好きな分野が組み込まれている作品を見ることをお勧めします。きっと何か新しい発見があるはずです。イメージや概念を決めつけず、目の前で起こることを体験して作品が何が言いたいのか見終わった後に考えたり、一緒に観に行った人と意見を交換してみてください。今まで舞台芸術に慣れ親しんでいた人は美術館へ、現代アートに慣れ親しんでいた方は劇場に行ってみるのも新しい世界に出会うことができるかと思います。
パフォーマンスアートが皆さんの人生が豊かになるきっかけになれば嬉しいです。

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