ロンドンのアートシーン2024                         

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2023年コロナ後の欧州大陸とアメリカのアートシーンに続き、2024年はイギリスを訪れました。大英博物館をはじめ、ナショナルギャラリーやテートギャラリーなど無料で入場できる美術館や博物館が目白押しで、何日かけても見終わる気がしません。今回、アートライターの佐藤久美が美術館、ギャラリー、建築家の作品やストリート・アートと、さまざまな角度からロンドンのアートシーンをご紹介します。

テート・モダン

テートモダンは、元発電所を大胆にリノベーションした煙突がシンボルです。Natalie Bell Building旧館とBlavantnik Building新館の2つの建物が回廊でつながれ、展示を見ながら行き来しているとあっという間に一日が経ちます。

展示室はそれぞれテーマがあり、旧館の MATERIALS AND OBJECTSでは、マルセル・デュシャンの「泉」が見られます。既製の工業製品に他人の名前を書いて作品として発表した、現代アートの始まりとも言われるこの作品のレプリカが展示されています。 

同じく旧館のMEDIA NETWORKS ではGuerrilla Girls(ゲリラ・ガールズ、1985-結成のコレクティブ)の壁一面のインスタレーションが目を引きます。

新館のPERFORMER AND PARTICIPAMNTSの9つの展示室には、片山真理(1987-)https://marikatayama.com/ の新作の映像・平面・立体作品や、戦後日本の前衛美術のなかでも重要な集団、具体美術協会(具体)(写真は中心メンバーの一人白髪一雄(1924-2008)が続きました。

有料企画展のオノ・ヨーコ(小野 洋子、1933 – )MUSIC OF THE MIND では、新館のパブリックスペースに参加型のプロジェクト「Wish Trees for London」がありました。2023年SFMOMA(サンフランシスコ現代美術館)でも「メンド(繕う)・ピース (MEND PIECE, San Francisco Museum of Modern Art version, 1966/2021)」Yoko Ono, MEND PIECE, San Francisco Museum of Modern Art version, 1966/2021 · SFMOMA があり、参加型アートプロジェクトの先駆けであったFluxus(フルクサス)が時を超えて世界中で再現され続けています。

ヴィクトリア&アルバート博物館

 デザインと装飾の博物館としてあまりにも有名な ヴィクトリア&アルバート博物館 (略;VA)、その名をはせる歴史的収蔵物と現代アートの組み合わせが自然にそして圧巻の規模で来場者を楽しませます。

正面を入ってすぐ、インフォメーションの吹き抜けを見上げると、アメリカの人間国宝第一号、ガラス作家のデイル・チフーリ(Dale Chihuly、1941- )のシャンデリアが輝きます。ドバイやシンガポールのホテルでも目にするチフリーのシャンデリアは、ボストン美術館でも設置され、広い空間のグラスアートとして欠かせない作品となっています。

アートコレクションと親和性が高いアンティーク陶器の展示は圧巻です。ハンガリーのHerend(ヘレンド) 、ウィーンのAugarten(アウガルテン)といった磁器製品とならび、イギリスのWedgewood(ウエッジウッド)、Susie Cooper(スージークーパー)の陶磁器が時代別に隙間なく展示されています。アートフェアで時折見かけるアンティーク陶器との展示密度の違いに言葉を失います。

イギリスのロマン主義の画家William Turner(ウィリアム・ターナー、1775-1851)も、もちろん複数収蔵されています。 各ギャラリーの時代を経た展示物の合間に、Kehinde Willey(ケヒンデ・ワイリー、1977-) の油画が展示されています。装飾を施された展示物との親和性が高く、2023年のボストン美術館、John, 1st Baron Byron – Works – Museum of Fine Arts, Boston (mfa.org)でも採用されていたキュレーションでした。

3つの有料企画展では、スーパーモデル ナオミ・キャンベルをフィーチャーしたNaomi in Fashion、建築展のトロピカル・モダニズム、GUCCIにスポンサーされた写真展、FRAGILE Beautyがあり、常設展示と行き来しつつ楽しめます。

ベネチア・ビエンナーレでも主催展示を行うこのVAは、現代美術の文脈でも必ず押さえておきたい博物館です。

ペース・ギャラリー

Pace (ペース)では、1階、地階ともにKiki Kogelnik (キキ・コーゲルニック 1935-1997)を特集していました。

ウィーンとNYを行き来し、当時のポップアートの流れに影響を受けながらも、独自の平面構成と色彩、そして女性の身体性を融合させたグラフィックを製作したアーティストです。

ハサミや切り込みをモチーフにした1971年のWoman Libシリーズや、ゴムのシートで身体かたどったシリーズ、陶器の彫刻など数十年経った作品とは思えず、アーティストの女性をモチーフとしたメッセージはなにか思い巡らせます。

ハウザー&ワースギャラリー

Paceから徒歩5分ほどのHauser&Wirth(ハウザー・ワース)には、少しはなれた2つの展示スペースがあります。展示の一つはビデオゲーム・デザイナーとAIアーティストの集団「EDGLRD 」(エッジロード)を率いる監督・プロデューサーのHARMONY KORINE(ハーモニー・コリン、1973-)。「AGGRO DRIQFT」でおなじみのサーマルレンズで撮影されたサイケデリックな映像を平面に再構成した最新作が紹介されていました。

南に下った入口ではISA GANZKEN(イザ・ゲンツケン、1948-) の、ロンドンの初めての大規模個展を20年振りになぞる展示でした。ケルン大聖堂の「ガーゴイル(雨樋の機能をもつ、怪物などをかたどった彫刻)」に魅了され、2004年の展覧会では独自のガーゴイルを制作し、翼を持つ天使のような人物と対話させたといいます。2024年は電線、アルミパネルといったエンジニアリングや重さを連想させる素材に加え、ブルーシート、明るいランプ、傘といった空、光、風を想起させるオブジェを通して対話を表現していました。メガ・ギャラリーでは、美術館で回顧展を行う作家やその新作が楽しめます。

建築デザイン:Renzo Piano(レンゾ・ピアノ、1937-)によるThe Shard The Shard: Inspiring change (the-shard.com) や、Norman Foster(ノーマン・フォスター、1935-)のGherkin(ガーキン、見た目からついたピクルスを意味する愛称、The Gherkin – at 30 St Mary Axe)こと旧スイス・リービルなどそうそうたる建築家が名をつられるロンドンですが、高層ビル以外にも訪れたい意匠とテーマ性に惹かれる建物があります。

サーペンタイン・ギャラリー(ザハ・ハディド)

VAの北側に広がる大きな公園には、2か所にSerpentine Galleriesがあります。北側のHydepark(ハイドパーク)にあるSerpentine NORTH Galleryは、隣接するカフェが Zaha Hadid(ザハ・ハディド、1956-2016)による設計です。 曲線による大胆な屋根をもつカフェをじっくり眺めてからギャラリーに向かうと、Judy Chicago(ジュディ・シカゴ、1939-)の展示でした。

西洋文化における女性の不在と周辺化に異議を唱え、その経験を可視化する独特の視覚言語を開発してきました。個人プロジェクトや共同プロジェクトは、誕生、男性性、権力の概念、絶滅、気候正義への長年の関心といったテーマを扱っています。

Kenginton Gardens(ケンジントン・ガーデン)のSerpentine SOUTH Galleryでは、6〜10月に世界の建築家が仮設の建物を建てるサーペンタイン・パヴィリオンが来場者を迎えます。2000年にザハ・ハディトによる設計から始まり、2024年第23回は韓国のMinsuk Cho(チョウ・ミンスク、1966-)と建築事務所 Mass Studies(マス・スタディーズ)が選ばれました。「Archipelagic Void」(アーキペラジック・ヴォイド)と題されたこのパヴィリオンは、オープンスペースを囲むようにデザインされた5つの「島」で構成されます。

 奥のギャラリーでは、Yinka Shonibare(イン力・ショニバレ 1962-)で、「The African library collection」 をart basel2023unlimitedで見たのが記憶に新しく、アートの時代性が継続していることを体感します。

コール・ドロップス・ヤード(ヘザウィック・スタジオ)

Coal Drops Yard(コール・ドロップス・ヤード)は、Thomas Heatherwick(トーマス・ヘザウィック、1972-)率いるHeatherwick Studio(ヘザウィック・スタジオ)による、石炭の集積場を大胆にリノベーションした施設で、写真で見るより広々とした空間だと現地で実感しました。

2棟の元集積場から伸びたひさしがつながり、人の行きかう導線を作るということでしたが、つながる3階部分は、残念ながら入ることはかないませんでした。当時のレンガ造りを残した施設に溶け込んでいます。

裏手にある円柱形のガスの貯蔵タンクも、国の指定建造物として保護されるGasholdersはHeritage & Architecture – Gasholders Londonにデザインされ、高級集合住宅と公園になっています。

ストリート・アート、グラフィティ

ガスホルダーを抜けると、運河がカムデンロックまで続き、いくつものグラフィティーが連なっています。一つ一つがカラフルで迫力があり、不思議な小道で飽きることはありません。途中、ボートで撮影しているチームとすれ違いました。

ロンドンのストリート・アートを巡るツアーも催されていますが、自分の目で探すのも楽しみの一つです。

まとめ

アートバーセルやベネチアビエンナーレなどのアートシーンや、アメリカの現代美術館での展示と、同じ作家をロンドンでも何度も目にし、時代のトレンド性を感じました。テーマは引き続き民族にフォーカスした作品や、woman-centered perspective、女性を中心にした/女性目線の作品などが多い印象です。PaceやHauser & Wirth 、Serpentine Galleryで展示されていたアーティスト達は、今度もどこかで繰り返し目にするでしょう。

電子的にとらえた画像をキャンバスに油絵具というメディウムで表現する再表現、グラフィティ・生活空間・運河が共存する違和感など、新しい組み合わせと、視点をずらした表現が多く見られました。伝統と新しいものが混在するのがロンドンの醍醐味だと感じました。

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