アール・ブリュットはアート枠に収まらない。

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はじめに、アール・ブリュット(生の芸術)とは?

意味を知らなくても、誰でも一度くらいは「アール・ブリュット」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

アール・ブリュットという言葉は1945年にフランスで生まれ、今までアートの外に置かれてきた精神障害者、囚人、子供、霊媒師などが作る作品を、これまでも存在していた医学的な見地からの研究ではなく、アートとして発表された概念、ジャンルとなっています。

2020年前後は特にアールブリュットをテーマにした展覧会も多々あり、ここ数年でアールブリュット (ここでいうのは障害者のアート) 専門のギャラリーや、小規模ではあるものの美術館などもかオープンしている、今注目のジャンルであります。

アール・ブリュットとは
生 (き) の芸術。フランスの画家デュビュッフェにより提唱。美術教育を受けていない人などが、既成の表現法にとらわれず自由に制作した作品をいう。

出典:デジタル大辞泉

アール・ブリュットが誕生した時代背景

第2次世界大戦終結の年は、それ以前にも主にヨーロッパでシュルレアリズム (1920~30年) が盛り上がるなど、伝統的なアートに変わる新しい概念のアートが誕生した時代でした。アールブリュット提唱者で作品のコレクターでもあったジャン・デュビュッフェは、1940年~1950年に起こったアンフォルメル(抽象表現主義)前衛芸術運動に参加しています。

時代を経てアール・ブリュットの概念はさらに広がる 

アール・ブリュットの提唱から27年後の1972年、イギリスの美術批評家ロジャー・カーディナルが「アウトサイダー・アート」という本の中で、アール・ブリュットの解釈を多少広げた形でアウトサイダーアートという英語の名称を初めて使用します。

アウトサイダー・アート( outsider art)とは、西洋の正規の芸術の美術教育訓練を受けていない者の制作した作品であるが、ここではアートとして扱われているものを指す。美術教育を受けていない独学自習であるとして、概念を広げ精神障碍者以外に主流の外側で制作する人々を含めた。プリミティブ・アートや、民族芸術、心霊術者の作品も含まれるようになった。

出典:Wikipedia

日本のアール・ブリュットの歴史

日本で最も有名なアール・ブリュットの作家はドラマ「裸の大将」の主人公として有名になった山下清 (1922年生まれ) でしょう。山下は軽度の知的障害のため福祉施設に入所しており、その施設の精神科医であった式場隆三郎が彼の作品を紹介してその名が一躍世に知られました。

式場医師は学生の頃から日本の芸術運動である白樺派や民芸運動に関わりが深く、また精神病理学的な研究から「アールブリュット」という言葉が誕生する以前からヨーロッパで研究されていた「精神病理学における障害者アート」の研究に関心を持っていました。彼は精神障害を持っていた画家ゴッホの研究者としても有名です。

アール・ブリュット / アウトサイダーアートの作家達

現代においては芸術教育の定義も曖昧になり、作家がアウトサイダーなのかそうでないのか判断することが難しくなってきています。その為現代アートの作家は含まず、比較的古い時代の作家達を抜粋してご紹介したいと思います。

たった一人で自分の理想を作り続けた孤高の作家
ヘンリーダーガー(アメリカ・掃除夫) 
ジョゼフ=フェルディナン・シュヴァル(フランス・郵便局員)

先住民族の作家
クリフォードポッサムチャパルトジャーリ(オーストラリア・アボリジニ)
ケノジュアクアシェバク(カナダ・イヌイット)

障害を持った作家
アロイーズ・コルバス(フランス・統合失調症患者)

19世期~20世紀にかけて存在した素朴派
アンリ・ルソー

アール・ブリュットとアウトトサイダーアートについて関連サイト

アール・ブリュットについてもっと詳しく知りたい方は以下のURLもご参照下さい。

NHK 人知れず 表現し続ける者たち
アウトサイダー・アート著者 ロジャー・カーディナルのインタビュー
アートペディア アール・ブリュットの生みの親 ジャン・デュビュッフェについて
今後開催されるイベント アウトサイダーアートフェア(NY・パリ)
アール・ブリュット美術館(スイス・ローザンヌ)

最後に

 アメリカやヨーロッパで捉えられるアール・ブリュットは基本的に本記事のはじめにご紹介した通りの意味合いです。しかし日本では山下清の影響もあってか障害者のアート=アール・ブリュットと捉える事が多いのが特徴です。

以前述べた様にパラリンピックや社会の多様性などの社会情勢からも、障害者のアートは今日本で徐々に注目を集め、NHKで特集番組が放送されたり美術館で展覧会の企画が組まれています。

今後アール・ブリュットという名前を与えられた彼らがアート産業の中に飲み込まれるプロダクトにならず、しかし社会の中でのリテラシーレベルが上がっていくことを期待しています。

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