皆さん、ギャラリスト・小山登美夫さんの著書である「現代アートビジネス」は知っているでしょうか。
2008年に発刊されているので、今で見ると、古い著書であります。しかし、
・ギャラリストの仕事内容
・アートマーケットを動かしているコレクターについて
など、小山さんの経験を中心にアートマーケットの「裏側」を具体的に解説されています。
今回は、本と比較して「現在のアートビジネスはどう変わったのか?」本の内容を紹介をしつつ、アーティスト目線で考えてみようと思います。
アートティスト・ギャラリスト・コレクターの方にオススメの本です。
目次
今と比較してみた小山登美夫の冒頭文について
とにかくアート業界にまつわる誤解は多い。
「アートはお金にならない。
アーティストは貧乏。
画廊や画商には近づき難い。
現代アートはわけがわかんない。」
小山登美夫「現代アートビジネス」の冒頭文より
これは「現代アートビジネス」の一番最初に書かれてます。アーティストを目指す人は感じることだろう。上記を覚悟した上で、アーティスト活動をしていると思います。
この4つの項目は重要であるので、
1、アートはお金にならない。
2、アーティストは貧乏。
3、画廊や画商には近づき難い。
4、現代アートはわけがわかんない。
に分けて話します。
【1】アートはお金にならない。
2020年はどうか?
結論、相変わらずアートをお金にはかえれてない。アートを使う企業へ対しての不安感を代弁します。
近年、クリエイティブマインドなどがアメリカに輸入され、デザイン思考、アート思考という言葉が出てきています。
これは、AI技術革新やビックデータによって「昨日は有効な手段が、明日通じなくなる」と言うように、すごいスピードで変化しています。
この環境を対応するために、創造的な思考や対応力などが求められるようになりました。それがデザイン思考やアート思考へ取りいられました。
結果、アート×ビジネスの講演会は増えてきた思います。
しかし、デザイン思考やアート思考の発案者は、アートディレクター、クリエーターがほとんどです。デザインに関しては、急速にビジネスと融合をしています。しかし、アートは、ビジネスと融合して「アートがお金になる」という状態になっていません。
そもそもアート作品は‥
「作品の背後には必ず生身の人間であるアーティストがいる」
(中略)
なんといってもアートは生物ですから、生産計画やマーケティングがあったからといって、よい作品、売れる作品が生み出される訳ではないのです。
(中略)
資本主義の商業活動では、マーケティングがとても大切な方法論であることはよくわかります。
(中略)
この世にたった1つでしか存在しないから貴重であって、マーケティングによって他の誰かによって作られたり、マスになってしまったら、価値として失っています。
小山登美夫「現代アートビジネス」より
と言うことを音楽と比較して言っています。しかし、全くないことはありません。例えば、アーティストは企業とコミションワークすることで、お金になってきています。
*コミッションワーク…「訳:委託制作」例えば、公園や駅にアート作品を置いてあることがありますね。ほとんどの作品はクライアントに合わせて制作されてます。
しかし、他の芸術関係と比べて幅が狭いかもしれません。
「アートにはマーケティングが成り立たない」
アートは資本主義と逆行するものでしょうか。
【2】アーティストは貧乏。
2008年からアート関係(コレクター、ギャラリー、キュレーターなど)で年収は上がったか?はっきりしたことが言えないか、給与額の問題が表面化はしていると思います。
2019年、フィラデルフィア美術館のキュレーターがインターネット上で「Arts + All Museums Salary Transparency 2019」を公開した。
データを見ると、ゲッケンハイム美術館やホイットニー美術館などの有名美術館に勤めているキュレーターがいました。キュレーターの給与額は、納得と驚きがありました。
データは、プライバシーの保護上、欠けている項目もあるが、事実であると考えます。
ポジティブな話をすると、テクノロジーの進化で、アーティストは知り合えるルート、オンライン販売で収入チャンスが増えたというのは間違いないです。
例えば、著書ではタグボートを紹介されていました。また、国内はArtstiker、ANDARTなどがあり、海外はartsy、Singleartなどがあります。
タグボートでは、手頃な価格の若手アーティスト作品がウォーホールと並んで売れる現象が起きています。
また、個人でBASEを使って、オンライン販売して売り上げをだすアーティストが出てきました。
しかし、企業からオーダー&コラボをされやすいアート作品は、まだいいと思います。
また著書では
商業主義と距離を置くか、結託するか
小山登美夫「現代アートビジネス」より
と題して、村上隆さんと奈良美智さんを比較していました。
矛盾しているようですが、商業主義と距離を置くことで、逆にものすごく高い価値を生むのもアートです
小山登美夫「現代アートビジネス」より
これは奈良美智さんが当てはまります。実際、パフォーマンスアートなどのアーティストは、アートでの無収入になりがちです。
アートマーケットができるということは、そのアーティストの表現である作品を受け止める社会的土壌ができることを意味します。
【1】アートはお金にならない で同じような考えを言いますが、日本はアーティストの表現を受け止める土壌と環境がまだまだです。つまり、アートは収入になりにくいです。
【3】画廊や画商には近づき難い。
アーティストの場合は、おそらく企業や政府の芸術仕事の情報が欲しいです。ギャラリストの方は、情報を多く持ってます。
しかし、アートはギャラリーの数よりアーティストの数が圧倒的に数が多いです。そうすると、ギャラリーの方が力関係が強くなります。
結果、ギャラリストは近づいてもらわないよう振る舞ってしまいます。ですので画廊や画商には近づき難い、といった構造になっています。しかし、以前と比べ芸術仕事の情報や書籍の種類が増えました。また、英語を読まなくても、アート系企業のサイトでオークションやマーケット情報を手に入れることが出来ます。
フリーランスのアーティストは、個人ブログで戦略的に公開する人も出てきました。
【4】現代アートはわけがわかんない
日本における「現代アートはわけがわかんない」は少し変わったと考えます。
いろんな要因があると思いますが「【1】アートはお金にならない」で話したクリエイティブマインドの一つで、アートは広められています。
他にも、アートのスターアップ企業を中心に手頃な価格で作品を見る機会が増えました。また、美術館中心に、アート作品がネット上に公開されるようになりました。art & cultureがいい例でしょう。
もちろん、勘違いもあります。
けど「現代アート」がわかりやすくなるより、アートがなんとなく浸透してきたから、現代アートへも抵抗はなくなってきたと思います。
【まとめ】約20年経つがあまり変わっていない。
テクノロジーによって広がり始めているが、大きな変化は起こっていない。現在でもアートマーケットの中心地はニューヨークが半世紀続いている。
しかし、ニューヨークがアート中心地である意味性がなくなっていると考えます。日本のアートを盛り上げるには、小山さんは、アートビジネスの問題点として、
・アートを社会と結びついていくメディア
・経済と連帯など
・コレクションの税整備
などが確実に機能していることを挙げられています。
作品を売ることはアートを「消費すること」ではなく「社会に残していくこと」
(中略)
そのためには、アーティストや作品を正当に評価して、価値を高めることが、お金に結びついていくシステムです。
小山登美夫「現代アートビジネス」より
小山さんの本から日本の現代アートマーケットには様々な課題が見え隠れすることがわかります。多くの人がその問題を共有しアート業界全体の風通しがよくなることに期待したいと思っています。