2020年ももうすぐ終わりますね。今年は今まで当たり前に感じていたものを見直す機会が多かった一年のように感じます。来たる2021年、未だ多くの困難が待ち受けていそうな新年ですが、2021年というのは東日本大震災からちょうど10年目の年でもあります。今から10年前もまた、当たり前の環境が途端に失われてしまった年でした。震災直後から復興アートや災害アートのプロジェクトは進められてきましたが、現在ではどのような芸術作品が生み出されているのでしょうか。今回は約10年経った今表現された【震災×アート】をまとめていきたいと思います。
目次
「3.11とアーティスト:10年目の想像」
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5111.html
茨城県の水戸芸術館 現代美術ギャラリーで2021年2月20日(土)~5月9日(日)に行われる予定の企画展です。茨城県もまた震災の被害を大きく受け、会場である水戸芸術館は臨時の避難所となった場所だそうです。震災を記憶する建物と作品に出会うことで、10年前の記憶やそこに生きる人々をよりリアルに感じることができそうです。
本展では「想像力の喚起」という芸術の本質に改めて着目し、東日本大震災がもはや「過去」となりつつある今、あの厄災と私たちをつなぎ直し、あのとき幼かった世代へ、10年目の私たちへ、そして後世へと語り継ごうとする作品群を紹介します。
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5111.html
Reborn-Art Festival
2017年、2019年と続けられている宮城県石巻市を中心に行われているアートフェスティバルです。2019年開催のものは残念ながら終了してしまいましたが、現在でもその地に残って鑑賞することができる作品もあります。石巻もまた津波の被害を大きく受けた町ですが、徐々に復興しつつあるようです。街全体を広々使った大きな芸術祭は見応えもありそうなので、来年以降の開催にもぜひ期待したいですね。
私たちは東日本大震災以後はっきりと、自分たちのまわりからほんとうの『人が生きる術』が失われかかっていることを、認識するようになりました。今もっとも必要なことは、この『人が生きる術』を蘇らせ取り戻すことにあると考えた私たちは、自分たちのめざすものを『Reborn-Art』と名付け、食や住や経済などの『生活の技』、アートや音楽やデザインの『美の技』、地域の伝統の『叡智の技』などとして、さまざまな領域における『Reborn-Art』を発見 / 再発見しようとしています。
https://www.reborn-art-fes.jp/know
Art Support Tohoku-Tokyo
震災後の記憶を忘れず、経験を未来につなげる活動をしているメディアです。2011年7月に始まったこの事業は、以降さまざまな活動を続けてきました。そして震災から10年目を迎えようとしている現在、新たに「10年目の手記」「10年目をきくラジオ モノノーク」というプロジェクトを行なっています。特に「10年目の手記」は誰でも参加できるプロジェクトになっているので、震災の記憶を忘れたくない、形に残したいと思っている人は参加してみてください。
震災をきっかけに育まれてきた、さまざまな経験や技術を振り返り、受け渡したい。新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界中が変わりゆくなか、東北にこころを寄せてきた人たちとともに、いまとこれからについて考えたいと思っています。
http://asttr.jp/about/
「失われた街」復元模型プロジェクト
https://losthomes.jp/projects/
東日本大震災とそれに伴う津波により、流され失われた多くの街や集落を1/500の縮尺の模型で復元し、震災前の記憶や環境を保存・継承していくことを目的としたプロジェクトです。またこのプロジェクトの素晴らしい点は過去の災害だけでなく、未来に予測される災害のためにも活動していることです。兵庫県南あわじ市の福良という地区は南海トラフ地震が起こった際に最高津波高さ8.1mを予測しており、その後の復興のために模型が作られています。
失われた街が湛えていた豊かな日常を想い、街への追悼を行わなければならないと感じました。このプロセスを通して、私たちも、被災地の皆様も、街の再生へ向けて第一歩を踏み出せるのではないかと思いました。
https://losthomes.jp/about/
FUTABA Art District
http://www.overalls.jp/cn1/futaba-top.html
このプロジェクトは原発事故の影響で帰還困難区域に指定されていた福島県双葉市を、アートだらけにして復興しようというものです。震災の記憶が残る、かつてお店だった跡地などに大きな壁面アートなどを制作しています。壮大なグラフィックアートからは、過去の悲しい記憶に引きずられないポジティブなイメージが湧いてきます。
ただ、絵を描いて「かっこいい」で終わりじゃない。
アートによって、人が「感じる」。
そして、経済が「動く」。
ここまで出来て初めて、「アートの完成」だと私たちは考えます。
http://www.overalls.jp/cn1/futaba-top.html
「時の海-東北」プロジェクト
宮島達男さんの代表的なモチーフであるLEDライトのデジタルカウンターを使ったプロジェクトです。「1」から「9」を刻む数字は生命の永遠性を表し、このカウントスピードは震災の被害を受けた方、東北の子供達、または東北や震災に強い思いを持っている方が設定したものです。完成は2027年を目指し、現在もワークショップやウェブサイトからプロジェクトに参加することができます。
大切な誰かと再会するために。あの頃の想いに再会するために。
「時の海-東北」では、そんな作品を作り上げるため、被害を受けた方々に寄り添い、共感してくれる多くの方々と一緒に、作品作りを進めていけたらと思っています。
https://seaoftime.org
「サンクスフラワー・プロジェクト」展
災害の多い日本には、その度に国内外からたくさんの温かい支援が寄せられます。その支援に感謝の気持ちを表そうと始められたのが「サンクスフラワープロジェクト」です。特に明治神宮の杜では東北で力強く育った草花を展示することで、復興や未来への希望の生命力を感じます。展示される草花にも込められた願いや意味があり、少し知るだけでより一層応援する気持ちが膨らみます。
福島県では多くの品種が育てられていますが、赤と金色のダリアは、本年のオリンピックイヤーを記念し、また、震災復興に携わった全ての人への感謝と、その支援を称える意味を込めて「メダリスト」と名付けられました。
https://jingu-artfest.jp/thanks-flower-project/
ずっとおうえん。プロジェクト2011+10…
2021年、フジテレビが東日本大震災の被災地を舞台しにたアニメーション作品を3本制作するというプロジェクトです。作品の中で東北の魅力に触れることはもちろん、アニメ作品の舞台となった場所を訪れる“聖地巡礼”に注目し、この作品をみた視聴者が被災地に自主的に足を運び、それが被災地の経済支援につながることを目的としたものです。TVアニメと長編アニメ映画の3作品の公開を予定しています。
アニメ作品をきっかけに、多くの方が被災地を訪れ、 創生の息吹、自然の美しさ、文化の深さ、食の豊かさなど、その地域の魅力に触れることで、 これらのアニメ作品が、次の10年、20年へとつながっていく無形の資源となり、 長期的な被災地支援につながることを目指しています。
https://zutto-ouen.com
陸前高田2011-2020
東京ビエンナーレにて展示予定の畠山直哉さんのアートプロジェクトです。畠山さんは自身のご家族が実際に東日本大震災で被災されたことをきっかけに約9年間地元の陸前高田市を撮影し続けました。被災直後から現在の復興の様子までの街の様子を、地元の方である畠山さんのフィルターを通して見ることで、東京にいながらも痛烈に被災地のリアルを感じることができるでしょう。また東京ビエンナーレでは災害対応力向上プロジェクトとして災害時に必要な情報を共有できる仕組みをつくっています。
フィルムをそのまま印画紙に密着させて原寸プリントしたコンタクトプリントは、畠山が見てシャッターを切ったカットがすべてプリントされています。セレクトされていない状態の写真群からは、何が見えるでしょうか。
https://tb2020.jp/project/rikuzen-takata-2011-2020/
A FUTURE FOR MEMORY /記憶のための未来
最後にご紹介するのは日本から遠く離れたカナダ、バンクーバーの美術館で2021年2月11日~9月5日に行われる予定の展示です。物質的な環境が劇的に変わってしまった時、記憶とどう向き合っていくのかをテーマに日本人アーティストたちの作品が展示されます。遠く離れた海外で、10年前の日本の記憶を思い出す…もしかしたらカナダの人にとっては初めて東日本大震災のことを知る人もいるかもしれないですね。残念ながらコロナ禍で日本からカナダまで行って展示を見ることは非常に難しいでしょうが、ぜひカナダの方にも日本の10年前の記憶を感じてもらえたら嬉しいです。
この震災は単に東北と呼ばれる地域だけの話ではなく、世界につながることだと提起している。「3.11」として知られるこの災害によって、自然と共生する生き方を人々は再考するようになった。また、震災の状況下であっても、人間にはモノを生み出し表現する欲求があり、また同様に自然にも生み出す力があることも改めて知った。
https://moa.ubc.ca/exhibition/a-future-for-memory/
災害時、アートに何ができるのか
東日本大震災から10年目の年ということで、もう一度災害や当時の記憶、復興、未来について深く考え直すきっかけになりそうなプロジェクトばかりですね。現在も新型コロナウイルス感染症が流行する中当たり前の日常が失われ、困難を強いられる生活がいつまで続くかわからない…という状態は10年前と似たものがあるような気がします。
今回紹介したプロジェクトのように、アートは過去の記憶を保存し、未来へ繋げる力があります。困難があるたびにアーティストたちは作品を作り続け、それを残すことで後世に受け継ぐ行為を繰り返しているようにも感じます。こんなにも皆が同じ困難を体験し、一緒に苦しむことは災害以外にそうないですよね。困難な状況だからこそ、これを忘れないためにも、未来の希望のためにも、アーティストの皆さんにはそれを形に残し続けて欲しいと強く思います。また、作品を作れない人でもアートプロジェクトに参加したりそれを鑑賞するだけでも被災地支援になっているので、ぜひリンクを踏んで積極的に行動に移して欲しいと思います。