「芸術家は作品価格はどうやって決めている?」と思ったことはありませんか? アーティストを目指す方も一度は考えたことはあるかもしれません。
今回「アートとプライシング」(値段付け)について、
・美術作品における値段の概要
・美術業界に置ける(一般的な)価格のルール
・実際どうやって値段をつけているのか
などの基本的なことから、人に聞きにくいことまでお話ししようと思います。
また「アート」と言っても各業種でその値段や価値体系はとても違うので、今回は絵画と彫刻など「美術」のジャンルについて書いていこうと思います。
目次
値付けの意味を考える
値段をつけるということは、つくったあなたが作品をお金に変えたいという意思表示ですよね?そういったように、何かを収益化することをマネタイズと言います。
もしマネタイズしたくない、つまり自分の作品を売りたくない、値段を付けられたくないと思うなら、それはしない方がいいと思います。なぜなら値付けをするという行為は、あなたの作品の価値を値段に変えて生きていく意思の表れだからです。
もっとざっくり説明すると作品の値段=あなたの作品の価値という風になりますので、
仕方がないから、とか嫌々に値付けをするのは後々悪い思い出になるので、作品を売りたいと思うまでスタートをしない方がいいでしょう。
では値段について私が知っていることを少しでもお伝えしたいと思います。
まず、「作品をつくった段階で値段はありません」
なぜでしょうか、基本的にはつくっている時に「過去にこのくらいの似た作品を10万円で売ったことがあるから、全体の30%ぐらい出来ているから、今は3万円の価値だな。と思う人はまずいませんよね。
ではいつから値段がつくのでしょうか。
それは「あなたが他者に公開する時に値段を付ける理由があり、その時に付く」のです。
ギャラリーやアートフェアで作品を見せる時は売る必要性があるので、値段が全てについています。
逆にビエンナーレや美術館の作品に値段はついていませんよね。あれはあの場で値札をつける必要がないからです。SNSで作品写真を投稿する際に、値段を表示するものとそうでない写真があると思います。
両方とも値段を表示しない理由があってやっているだけなのです。また、何度も作品を売ったことがあるか、一度も売ったことがないかに関係なく、値付けが必要な場所に作品が並ぶまで値段はありません。
値段の必要性
値段をつけるのは、もちろん売りたい意思があり売れたらもちろん嬉しいし、やる気も出るし、収入にもなる。
時間もお金もかけてた作品なら、なおさら報われた想いになりそうですね。また、自分ではなくギャラリーやディーラーがあなたに代わって作品を売ってあげる。そのマージンをもらうというビジネスのために値段をつけますよね。
ここまでは当たり前の話ですが、では「いくらの値段をつけたらいいのか?」がポイントです。
美術の値段付けの一般的ルール
“美術界” の値段付けに対する一般的ルールを説明します。まず断っておきますがこれらの方法以外ももたくさんあると思います。あくまで筆者の経験とリサーチを通して学んだものだということを了承ください。
まず、値段付けには確固とした「決まりや法律はありません」。
時にこれが美術界にモヤモヤしたところで、一般の人がわかりにくいブラックボックスの由縁を持ちます。
ですが、決まりはなくともモラルがあります。それは「美術界と値段は信頼で成り立っている」と言うことです。
作家とギャラリストとの信頼関係、ギャラリストとアートコレクターとの信頼関係があることが、その値段を保証しているとも言えるのです。そこにある芸術作品が価値のあるものかそうでないか、値段が高いか低いかも置いといて、これらに値段があるのなら、それは美術の歴史と希少価値、皆のストーリーが作り上げた、信用に裏付けされた関係によって値付けがされているのです。
実際、値段はどうやってつけるの?
では、個人レベルの作品と値段付けの話に戻りましょう。ポイントは、作品の内容ではなく、作家の内容で値段が付きます。
一生懸命作品をつくって、そして“品質の高い”を人前で公開しているのに作家の内容で値段が決まると言われたら嫌に思う人もいるかもしれません。しかしあえてもっと言うなら、誰が、 どんなものをつくったかということが基準です。
もしも、あなたが有名作家と全く同じものをつくり、同じような展示会をしても、値段に違いが出ますよね。では、「あなたの値段」の具体例をあげながら解説していきましょう。
例えば、美術大学などの卒業制作展覧会やSNSなどで作品を投稿した際に、自分の作品に値段を付ける必要性が出たとします。
まずは、あなたが過去に作品と呼ばれるものを「美術の業界に関係したところで売ったことがあるかどうか」が重要です。ちなみに、バイトレベルの絵など、あなたの名前がない仕事は除外します。
一般的には片手で持てる程度の絵は数千円~数万円で始まります。それは例えあなたがどんな思いで、何時間かけて描いても、美術界で値段を付けるとしたらそうなります。
これには理由が2点あります。
なぜ最初の頃の作品の値段は安いのか
1. 信用がまだない
美術業界の情勢や経済と関りがないギャラリーで展示したことがないのなら、値段は変動してもさせなくてもさほど今後に影響はありません。
しかし、ギャラリーや百貨店などのちゃんとした場所で行う展示ではない時に、値段を付けるのは少々危険があります。往々にして作家側はいかにこの作品に愛があり、苦労したことを知っているからこそ値段を高く上げがちです。しかし、その熱量には関係なく、値段はその業界での価値を意味しています。
何百も絵を描き、ストックが沢山あり、今後も売れる売れないに左右されず制作をし続ける意思があるか。
ギャラリストなどは、すぐにでもやめてしまいそうな「長いスパンで見て投資価値がない人」は信用しません。だからこそその業界でのステータス、つまり経歴に表れるあなたの過去と今後を見るのです。
作品がいいから値段を高くしていいわけではありません。また、いいものをつくる作家は溢れるほどたくさんいます。皆、真摯に向き合っているのですから当たり前のことかもしれません。
しかしそこには競争原理があり、全員が頑張った分だけ値段が上がるわけではないのです。
2. 作家の値段は右肩上がりのみを求められる
駆け出しでアート業界の住人やギャラリーの “手垢や匂い” がまだついていない無垢なあなたは、値段が安いかもしれません。しかし、作家の値段は、常に右肩上がり、しかもゆっくり上がるのがいいと言われています。
それは長年の計画を持ち、ゆっくりとあなたと作品の価値を上げていくことが成功法だということです。
始めて数年の人の値段が安いのは当たり前です。なぜならこれから値段が上がっていく一方だからです。
値段をなかなか上げられないからといって、ぐずってはいけません。時が過ぎるのは早いものです。その値段が上がっていく前に、その大事な作品の質、量、経営能力、プレッシャーに耐えられる力を養わなければいけないからです。
ですのでもし、普段数万円で売っている作品を、「あなたの作品が好きだから100万円で買う」と突然誰かにお願いされたとしても売らない方がいいと思います。なぜなら、一度値段をあげたら次に同じような作品をつくった時に、また同じように100万円に設定しないといけないからです。ですがそんな非常識な値段の高騰をしても、以前に一度あった偶然の100万がある保証はありませんよね。
もし相手によって値段を変えてしまうと、冒頭にも記述した信用を失うことにつながり、結果自分で自分の首を早いうちに絞めてしまうことになります。ですのでもし100万円であなたの作品を買ってくれる人に会ったとしたら、「今の私の作品はこのぐらいの大きさで5万円なので、一つ5万円を毎月一回、20ヶ月間買ってください」と言うとベストかもしれませんね。そんなことがあったら夢みたいですね。
【まとめ】分析して自分の作品に値段をつける
お金のことや、自分とその価値のことなどは、なかなか人に聞きにくかったり、ネットで勉強できる内容ではないセンシティブな問題です。私自身は、学生の頃から世界中の何百のギャラリー、アートフェアで他者の作品の値段をチェックしています。
画廊、ギャラリー、アートフェアなど様々な系統の場所で、基本的には会場、もしくはスタッフの人に尋ねれば値段表を見ることができます。こうして、この作家の作品、キャリア、売れ行きなどと値段の相場のデータを少しずつ蓄積しながら自身の作品の値段をつけていきます。
自分が好きなことを長く続けたいからこそ、仕事としてお金のことを考えることは重要です。全くやましく思うことではありません。
どんどん突き進んでいきましょう。