芸術分野の学芸員になるための方法を説明『入門編』

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今回は日本で学芸員になる方法や、実際にどのような仕事をしているか紹介します。アートに関わる仕事の一つである学芸員について、筆者の経験を交えながら詳しく見ていきましょう。

学芸員の資格の取り方

学芸員資格を取るには以下の3つの方法があります。(文化庁より)

(1)学士の学位を有し、大学で文部科学省令の定める博物館に関する科目の単位を修得したもの。

(2)大学に二年以上在学し、博物館に関する科目の単位を含めて六十二単位以上を修得したもので、三年以上学芸員補の職にあったもの。

(3)文部科学大臣が文部科学省令で定めるところにより、上の二つにあげたものと同等以上の学力及び経験を有すると認めたもの(学芸員資格認定を合格したもの)。

(1)は、大学で博物館学芸員に関する授業を受けて単位を取り卒業することを意味します。筆者はこの方法で博物館学芸員(美術系)を取得し学芸員になりました。

しかし、ほとんどの美術館が学芸員を募集する際「修士号取得や同等の学力」を条件としています。本気で学芸員を目指す方は、資格取得に加えて大学院の進学を検討したほうがよいでしょう。

資格を取る際の注意点

学芸員資格に必要な単位を取るうえで、注意すべき点を紹介します。

必要な単位を確認する

資格取得のために受けるべき授業をすべて確認しましょう。授業によっては 他の授業とかぶっていることがあるかもしれません。受けるべき授業 の開講時期や開講時間をしっかり調べて時間割を組み立ててください。一度単位を落とすと、取り直すのが難しい場合もあるので要注意です。

また大学によっては、「他学部履修届」のような資格に必要な授業を履修するため手続きがある場合もあるようです。大学や指導教員の方にしっかりと確認しましょう。

実習先の目星をつけておく

早い人は大学3年次、多くの人が大学4年次に博物館実習という美術館での実習を受けます。大学によりますが、大抵、自分で実習先の美術館を探し、コンタクトを取って採択してもらうことが多いです。

ですので、自分の実習に行きたい美術館はどこか、いつごろから実習生の募集をしているか、実習の応募条件などしっかり確認しておきましょう。場合によっては作文課題を審査で求められることがあります。

また第一希望の美術館に実習に行けない場合のことも十分に考えておきましょう。例えば、応募しても採択してもらえないことや、美術館によっては毎年募集していないこともあります。実習なしでは資格の取得はできません。第二希望、第三希望も見つけておきましょう。

学芸員としての就業場所と採用試験

資格を取った後、学芸員として働ける場にはどのようなものがあるのでしょうか。ここから主な就業場所を紹介していきます。

①公立の美術館

県の美術館や市の美術館です。欠員がでないと募集はありません。しかし、県や市のホームページ、あるいはハローワークに秋ごろにかけて募集がでている場合があります。こまめに確認しましょう。

②私立の美術館

個人コレクターや企業などによってつくられた美術館です。例えば近現代美術中心に展示している大原美術館、日本画を中心に展示している山種美術館などが有名です。こちらも欠員がでないと募集はほぼありません。美術館のホームページ、ハローワーク、求人サイトなど美術館によって色々な媒体で募集をかけているのでアンテナを張っておく必要があります。

③企業の学芸担当

意外と盲点なのが企業の美術・学芸担当です。例えば、企業が慈善事業の一環でアートに関するイベントや展示をする場合や、美術館を作らないまでも美術作品を収集・展示をしている場合があります。募集方法は様々ですが、美術と関係ない部署で募集をしていたり、企業の美術・学芸担当として募集をしていたりする場合があります。こちらもこまめなチェックが必要です。

採用試験

上述した①〜③は採用方法やそれに伴う試験内容が、それぞれ違います。どれも書類審査と面接は必須でそれにあわせて筆記試験や作文試験が加わってきます。 私が実際書いた作文の内容や、今までみたことのある作文の課題は以下のようでした。

「当美術館の所蔵作品を一つ選び、解説文を書きなさい」
「あなたが思う当館の魅力を書きなさい」
「あなたが当館で行いたい企画とその理由を書きなさい」


これらは全て400 字〜800 字で書きます。作文は試験を受ける前から内容発表をされている場合が多いので事前にしっかり考えて大学の先生や周りの人に添削してもらいましょう。また、作文課題の内容が分からない場合も美術館や企業の所蔵作品、 所蔵作品の傾向・特徴、自分が学芸員になったらやってみたいことと理由などは考えておくべきです。

実際の仕事内容

学芸員の仕事としてよく挙げられるのが、以下の5本柱です。

1:博物館資料の収集・整理
2:博物館資料の保管・保存
3:博物館資料の展示・活用
4:博物館資料の調査研究
5:教育普及活動等、博物館資料と関連する事業

では実際にはどのような仕事をしているのでしょうか。筆者が経験した企業の学芸担当の仕事を例にご紹介します。

作品の保管・保存・整理

毎日の仕事が作品の保管、保存、そして整理です。企業が作品を収集している場合、作品が増えることはあっても減ることはあまりありません。そのため作品がどの場所に保管されているかはもちろんのこと、作家名・作品タイトル・収蔵時期・作品の画像などのリストを作りアーカイブに残します。このリストがあれば作品を美術館に貸し出す場合や展示替えなどの時に作品情報を一覧でき、どこに保管されているかすぐ分かるからです。

また保管に合わせて定期的に作品のコンディションチェックも行います。丁寧に保管してあっても不慮の事態がないとは限らないためです。

展示会の準備

季節などに合わせて定期的に作品の展示替えを行います。これは学芸員のセンスが問われる場面の一つで す。

展覧会準備期間には展覧会・イベントの企画が加わります。実際に企画が決まると、企画に沿って作家やギャラリーに連絡を取ったり、チラシやポスター・チケットを制作するためにデザイナーや印刷会社と連絡を取ったりしながら企画を進めていきます。展覧会に合わせて図録の出版もする場合、写真撮影や画像などのデータの収集をするほか、図録に載せる文章の執筆など大忙しです。

以上が学芸員の資格の取り方と実際の働き方でした。実際に働く際には、芸術の知識はもちろんのこと様々な業務を並行して取り組むマルチタスクの処理能力、いろいろな立場の人と関わるためのコミュニケーション能力、そして体力がとても大事になります。

大変ですが、作家とコミュニケーションをとったり、作品が展覧会で並んだりするのを見ると本当にやりがいを感じました。興味があるかたは是非チャレンジしてみてください。

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