アートギャラリーと契約について

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アーティストとギャラリーの関係は切っても切り離せません。アーティスト活動に必ずついて回るギャラリーについて、皆さんはどのくらいご存知でしょうか。まずギャラリーの運営形態は、大きく分けて2種類あります。

コマーシャルギャラリー(企画画廊)
ギャラリーが主体となって展示を企画運営をします。展示される作家や作品はギャラリストによって選定されます。展示費用は作家負担にはなりません。販売マージンは運営方針によって異なります。

レンタルギャラリー(貸し画廊)
期間貸しをしているギャラリーを指します。作家はレンタル料を支払いスペースを借りることができます。ギャラリーによっては事前審査があることもあります。販売マージンはコマーシャルギャラリーに比べて作家配分が多いのが一般的です。

上記2種類のうち、契約を交わしてギャラリー所属のアーティストとなれるのは基本的にコマーシャルギャラリーです。今回は「美術・現代アート・工芸」分野を志す皆さんへ、コマーシャルギャラリーとの契約について紹介します。

所属契約の方法

ギャラリーHPの「ARTIST」覧では、作品を取扱っている作家が紹介されています。彼らはそのギャラリーに所属していて、呼ばれ方は「専属作家・所属作家・取扱作家・ギャラリーアーティスト」など様々です。殆どのギャラリーの所属数は20人前後です。これらの名称は、はっきりとした定義の基に分類されている訳でありません。しかし、一般的には下記のように分けられます。

専属作家・所属作家
専属契約を結び、ギャラリーを窓口に作品販売をする作家。

取扱作家
作品の取扱いのみを請け負う作家。何かしらの契約を結んでいるわけでは無い場合が多い。

しかし「専属作家・所属作家」と呼ばれている人たちも、必ずしも書面で契約を交わしているわけではありません。契約書を交わして「○○ギャラリーの専属作家」となった訳ではなく、口約束の可能性も十分あります。

世界的な活躍をする日本画家 千住博氏が契約書を交わしていたにも関わらず解釈の違いからトラブルとなり裁判にまで発展したケース(参考:アートのトラブル)は記憶に新しいところでしょう。このように大物作家と呼ばれる人たちの中にはギャラリーと契約書を交わしている作家もいます。しかし大物作家以外の殆どの人々は、契約書を交わしていません。これが日本の現状です。

大きなお金が動くにも関わらず契約書を交わさないこの習慣は、アートの性質に依るところが大きいかもしれません。アートは非常に流動的です。ほとんどの作家は一人で制作しています。そのため「いつまでにこれくらいのクオリティーのものを何点」といった機械のような生産計画は立てにくいものです。特に現代アーティストは、現代社会の情勢を敏感に感じ取り、作品に反映する作風の作家が多いため、予め契約書によって何らかの縛りがあれば、表現の幅を狭めてしまいます。そういう事情もあってか契約書を交わさないギャラリーが多いのです。

ギャラリーと契約する意義

それではなぜ、ギャラリーへの所属を望むアーティストが多いのでしょうか。それは、アーティストのサポートためにギャラリストが担う役割が大きいからです。ギャラリストは作家の宣伝から売り込み、そして何より作家自身を信じて投資してくれるからです。

ギャラリストの仕事は多岐に渡ります。「美術が好き」という気持ちが根底に無いと続けていけない程大変な職業なのです。ギャラリストの仕事について現代アートのギャラリストである小山登美夫は著書「現代アートビジネス」の中でこう述べています。

みずからのギャラリーで発掘したあるいは選んだアートを発表し、社会に価値を問い、その価値を高めていく仕掛け人です。

小山登美夫『現代アートビジネス(初版)』(アスキー新書, 2008年)

「この人は」という作家を発掘し、自身のギャラリーで作品を展示したとします。仮に作品が完売したとしてもおよそ半分しか売り上げは入ってきません。若い作家でまだ評価の定まっていない作家なら価格は安いですし、作品が売れても売れなくても家賃は毎月かかります。(中には自身の持ち店舗でやっているギャラリーもありますが、立地の良い場所に無いと人も来ないので、基本的に賃貸でやっているギャラリーがほとんどです)その他光熱費、広告宣伝費、作品運搬費など諸々の経費がかかりますし、従業員を抱えていたら人件費もかかります。一定の評価があり作品の値段が高額な人気作家はすでに名のあるギャラリーが付いているでしょうから、そういった作家の作品を取扱いたいと思ってもそう簡単にはいきません。

またアートフェアに出品するとなると出展料がかかります。アートフェアへの出展料はその知名度や規模、ブースの広さによって変わってきますが、日本で最も有名なアートフェアであるアートフェア東京は一番小さいブースでも88万円です。(参考:アートフェア東京2021出展料)それに加え、ライト・机・椅子のレンタル料が加算されたり、作品の運送から梱包費、そこに数日滞在するのであれば宿泊費や食費など雪崩のように経費が押し寄せてきます。ギャラリストが数人、作家まで立ち会ったらもちろん更にです。これが外国の場合ならどうなるかは容易に想像できるでしょう。

どこのギャラリーに取り扱われているかは、作家の評価やブランディングにとって大切なポイントです。有名なギャラリーに作品を取り扱ってもらえるだけで作家としての価値が上がります。その上、有名なギャラリーは影響力のあるコレクターを抱えています。影響力のあるコレクターとは「リーディングコレクター」と呼ばれる人たちのことで、彼らが買ったということでその作家の価値が上がるのです。

そういう訳で、多くの作家が有名なギャラリーと契約することを望んでいるのです。

契約 ≠ 安泰

念願叶って有名ギャラリーの専属作家になったとしても、安泰というわけではありません。前述した通り、どのギャラリーもおよそ20人程度の作家を抱えています。平均的な個展の会期は数週間~1ヶ月程度。その他にもグループ展が不定期で開催されます。つまり個展をするチャンスは2年に1度程度しか回ってこないのです。

専属作家といっても、他のギャラリーへ作品を展示できないわけではありません。複数のギャラリーで作品が取り扱われている作家は少なくありません。作品を絶えず発表していくためには発表の場を一箇所に限定しないことが重要かもしれません。

しかし専属契約をしているギャラリーがある場合は、基本的には所属先へ何の断りもなく同地域内の他ギャラリーと契約することはタブーだと言われています。県外や海外のギャラリーであれば、「経験を積んで功績を残す」という観点から展示が可能な場合が多いでしょう。

ただ所属しているギャラリーと良い関係性を保ちたいのであれば密にコンタクトをとることを薦めます。他県や他国であっても契約の話が出たら先ずは相談するべきです。もしかしたら関係が良くないギャラリーかもしれません。もしも関係が良好だとしたら、双方のギャラリーで交換展示や作品委託などコラボの可能性もあり得るので、相談して損はありません。

最も重要なのは信頼関係

あなたの作品をどこかしらで見かけたコレクターが個人的に作品を購入したいと直接連絡が入る場合もあるでしょう。直接購入してもらった方が作家にとって一見おいしい話と映るかもしれませんが、ギャラリーを通さずに独断で販売するというのは作品の所在や品質の管理、ブランディングに関わって来るので、避けるべきです。

最近ではSNSの発達から作家に直接海外からも連絡が来ることが頻繁にあります。「海外であるアートフェアに出品しませんか」や「雑誌やオンラインに作品を掲載して販売しませんか」など様々な連絡がきます。一見すると海外から声がかかった、と嬉しく思うかもしれませんが、トラブルも多いようです。出品自体が有料だったり、それでもチャンスを掴もうと出品したところ作品が売れても支払いが無かったりというケースもあるようです。

基本的には作家とギャラリーは信頼関係が無いと成立しませんので、信頼関係が無く、ましてや一回も会ったことすら無いギャラリーとの付き合いは慎重になるべきです。

しかし全ての販売をギャラリーに任せっぱなしにしていては、前述の通り展示の機会はすぐには回ってきませんので、自分でブランディングし、営業したりオンラインなどで販売していくことも重要です。自分をブランディングする上でギャラリストと方向性を同じくするためにもこまめにコンタクトを取り続けるのはマストです。そして繰り返しになりますが、何よりも信頼関係が重要な要素ですから、「作品が売れた」「声が掛かった」など何かあればすぐにギャラリーに報告しましょう。

まとめ

アート業界は「信頼関係」「暗黙の了解」がしっかりと根付いていています。一見不確定な要素が多いように思われますが、そもそもアートは流動的で不確かなモノです。これらのルールを守ることで健全なアートマーケットが保たれているのです。しっかりとしたブランディングを構築し、作品の価値を一緒に高めていけるギャラリストとの出会いは貴重です。そういう関係に巡り会えたら是非とも大切にして欲しいです。

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作品と価格の付け方 〜アートをマネタイズする〜

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