ギャラリーと契約

お金

 こんにちは、今回はギャラリーと契約について書いていこうと思います。

 まず前提としてギャラリーは2種類に分けられます。

「コマーシャルギャラリー(企画画廊)」と「レンタルギャラリー(貸し画廊)」の2種類です。

・コマーシャルギャラリーとはギャラリーが主体となって展示を企画、運営しており、出品料は無料です。その代わり作品が売れた際のギャラリーの取り分がレンタルギャラリーと比較すると多くなります。

・レンタルギャラリーは期間貸しをしているギャラリーのことで、事前にレンタル料を支払えば(ギャラリーによっては審査があるところもありますが)基本誰でも借りることができます。その分作品が売れた時の作家の取り分がコマーシャルギャラリーと比較すると多くなります。

作家とギャラリーが契約しているのは基本的にはコマーシャルギャラリーです。

ギャラリストの仕事 

コマーシャルギャラリーで作品が売れたらギャラリーの立地にもよりますが、50~70%が画廊の取り分となります。美術業界以外の人にこの話をすると「そんなに画廊が取るのか」と驚かれることが多いです。しかし多くの作家はギャラリーに所属することを望んでいます。それは目には見えづらいかもしれませんが、ギャラリストが担っている役割が大きいからです。

ギャラリストの仕事は多岐に渡ります。「美術が好き」という気持ちが根底に無いと続けていけない程大変な職業なのです。

ギャラリストの仕事について現代アートのギャラリストである小山登美夫は著書「現代アートビジネス」の中でこう述べています。

「みずからのギャラリーで発掘したあるいは選んだアートを発表し、社会に価値を問い、その価値を高めていく仕掛け人です。」

この人は、という作家を発掘し、自身のギャラリーで作品を展示したとします。仮に作品が完売したとしてもおよそ半分しか売り上げは入ってきません。若い作家でまだ評価の定まっていない作家なら価格は安いですし、作品が売れても売れなくても家賃は毎月かかります。(中には自身の持ち店舗でやっているギャラリーもありますが、立地の良い場所に無いと人も来ないので、基本的に賃貸でやっているギャラリーがほとんどです)その他光熱費、広告宣伝費、作品運搬費など諸々の経費がかかりますし、従業員を抱えていたら人件費もかかります。一定の評価があり作品の値段が高額な人気作家はすでに名のあるギャラリーが付いているでしょうから、その作家の作品を取扱いたいと思ってもそう簡単にはいきません。

またアートフェアに出品するとなるとそれにも出展料がかかります。アートフェアへの出展料はその知名度や規模、ブースの広さによって変わってきますが、日本で最も有名なアートフェアであるアートフェア東京は一番小さいブースでも88万円です。

(アートフェア東京2021出展料 https://artfairtokyo.com/2021/applicant_guideline

ここに更に、ライト、机、椅子のレンタル料が加算されたり、作品の運送から梱包費、そこに数日滞在するのであれば宿泊費や食費など雪崩のように経費が押し寄せてきます。ギャラリストが数人、作家まで立ち会ったらもちろん更にです。これが外国の場合ならどうなるかは容易に想像できるでしょう。

どこのギャラリーに取り扱われているかは、作家の評価やブランディングにとって大切なポイントです。有名なギャラリーに作品を取り扱ってもらえればそれだけで作家としての価値が上がりますし、影響力のあるコレクターを抱えています。影響力のあるコレクターとは「リーディングコレクター」と呼ばれる人たちのことで、彼らが買ったということでその作家の価値が上がるのです。

そういう訳で、多くの作家が有名なギャラリーと契約することを望んでいるのです。

作家とギャラリーは契約書を交わさない?

ギャラリーのHPを見ると、「Artist」と書かれた欄があり、そのギャラリーで作品を取り扱っている作家が紹介されています。大体20人前後のところが多く見られます。

彼らはそのギャラリー の「専属作家」「取扱作家」「所属作家」「ギャラリーアーティスト」などと呼ばれる存在です。

この「専属作家」「取扱作家」「所属作家」「ギャラリーアーティスト」はそれぞれはっきりとした定義の基に分類されている訳ではないのですが、一般的には「専属作家」「所属作家」はそのギャラリーと専属契約を結んでいて作品販売の窓口を独占させる形態の作家のことを指し、「取扱作家」はその名の通りその作家の作品を取り扱っているのみで、何かしらの契約を結んでいるわけでは無い場合が多いようです。

しかしこの「専属作家」「所属作家」と呼ばれている人たちも必ずしも契約「書」を交わして「今日からうちの専属作家」となっている訳ではなく、多くの場合口約束の契約関係にあります。もちろん例外はあり、ギャラリーによっては、あるいは作家によっては契約している場合もあります。

ギャラリーと作家が契約書を交わしていたにも関わらず、その契約内容の解釈の違いからトラブルになり、裁判にまで発展したケースが近年話題になっていましたのでご紹介します。

(裁判所はどのように契約書を解釈したのか? 千住博事件東京地裁判決を読み解くhttps://news.yahoo.co.jp/articles/6c6b37d7b3d1c2d203a081c5760b2a282d76faac

このように人気作家、大物作家と呼ばれる人たちの中にはギャラリーと契約書を交わしている作家もいます。

しかし人気作家、大物作家以外はほとんど契約書は交わしていないのが日本の現状です。

大きなお金が動くのに契約書を交わさないというのは、アートのその流動的な独自の性質によるところが大きいです。ほとんどの作家は一人で制作しており、機械のようにいつまでにこれくらいのクオリティーのものを年間何点、というような生産計画は立てにくいものです。特に現代アートの作家は現代社会の情勢を敏感に感じ取り、作品に反映するという作風の作家が多いため、予め契約書によって何らかの縛りがあれば、表現の幅を狭めてしまいます。そういう事情もあって契約書を交わさないギャラリーが多いのです。

ギャラリーと契約≠安泰

多くの作家は有名なギャラリーの専属作家になりたいと思うでしょう。しかし努力してギャラリーの専属作家になったとしても、安泰というわけではありません。前述した通りギャラリーはおよそ20人程度の作家を抱えています。個展の会期が数週間~1ヶ月で、その他にもグループ展が入ってきます。なので個展をするチャンスは2年に一度程度しか回ってきません。

「専属作家」といってもは世界中にある他のどのギャラリーにも作品を展示してはいけないということではなく、複数のギャラリーで作品が取り扱われている作家は少なくありません。なので作品を絶えず発表していくためには発表の場を一箇所に限定しないことが重要かもしれません。

しかし専属契約をしているギャラリーがある場合は基本的には同じ地域で、例えば東京のギャラリーと契約しているならば他の東京のギャラリーと何の断りもなく契約を交わすというのはタブーと言われています。県外、海外であれば経験を積む、功績を残すという観点からも展示が可能な場合が多いでしょう。ただ所属しているギャラリーと良い関係性を保ちたいのであれば密にコンタクトをとり、他の県や他の国で契約するような話になったらまずは相談するべきです。もしかしたら関係が良くないところかもしれないし、関係が良好だとしたら二つのギャラリーで交換展示や作品の委託などコラボの可能性もあり得ます。

最も重要なのは信頼関係

あなたの作品をどこかしらで見かけたコレクターが個人的に作品を購入したいと直接連絡が入る場合もあるでしょう。直接購入してもらった方が作家にとって一見おいしい話と映るかもしれませんが、ギャラリーを通さずに独断で販売するというのは作品の所在や品質の管理、ブランディングに関わって来るので、避けるべきです。

最近ではSNSの発達から作家に直接海外からも連絡が来ることが頻繁にあります。「海外であるアートフェアに出品しませんか」や「雑誌やオンラインに作品を掲載して販売しませんか」など様々な連絡がきます。一見すると海外から声がかかった、と嬉しく思うかもしれませんが、トラブルも多いようです。出品自体が有料だったり、それでもチャンスを掴もうと出品して作品が売れたとしても支払いが無かったりというケースもあるようです。

基本的には作家とギャラリーは信頼関係が無いと成立しませんので、信頼関係が無く、ましてや一回も会ったことすら無いギャラリーとの付き合いは慎重になるべきです。

しかし全ての販売をギャラリーに任せっぱなしにしていては、前述の通り展示の機会はすぐには回ってきませんので、自分でブランディングし、営業したりオンラインなどで販売していくことも重要です。自分をブランディングする上でギャラリストと方向性を同じくするためにもこまめにコンタクトを取り続けるのはマストです。そして繰り返しになりますが、何より信頼関係が最も重要な要素ですから、作品が売れた、や声が掛かったなど何かあればすぐにギャラリーに報告しましょう。

まとめ

アート業界は「信頼関係」「暗黙の了解」がしっかりと根付いていています。一見不確定な要素が多いように思われますが、そもそもアートは流動的で不確かなモノなので、それらのルールを守ることで健全なアートマーケットが保たれているのです。しっかりとしたブランディングを構築し、作品の価値を一緒に高めていけるギャラリストとの出会いは貴重です。そういう関係に巡り会えたら是非とも大切にして欲しいです。

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