LGBTQ +のアートは社会にどう影響するのか

アート思考

2020年9月11日のartnet(http://www.artnet.com)の記事にこのような記事が掲載されていました。

「ポーランドのワルシャワを代表するウジャズドフスキ城現代美術センターで、新しく政権を握る右派の「法と正義」から任命された館長によって、これまでのルールを逸脱して同性愛嫌悪的な作品が購入収蔵されたことが批判を呼んでいる」(https://news.artnet.com/art-world/poland-acquisitions-1907310

今回のこのニュースで取り上げられている作品はJacek adamasという1955年生まれのポーランドの作家によるのネオン管の警棒をモチーフにした作品です。 

今年7月にポーランドで行われた大統領選挙で新たに大統領に任命された与党「法と正義(PiS)」を含む保守連立を率いるアンジェイ・ドゥダ大統領は「同性婚と同性愛者による養子縁組を憲法で禁止するつもり」などとこれまでにも繰り返し同性愛嫌悪の発言を行い活動家らから反感を買うなど、ポーランドでは近年LGBTQ +を巡る問題が話題になっています。

はじめに

性的マイノリティの人々のことをLGBTQ +という言葉で表されるようになったのはつい最近のことですが、これらの言葉が生まれるはるか昔からLGBTQ +の芸術家は当然存在していました。

芸術家達は自身のアイデンティティである性的思考を自身の作品にひっそりと忍ばせたり、時には社会の偏見と戦う武器として作品に反映させたりしてきました。これはLGBTQ +を巡る問題に関わらず、アートが果たしている重要な役割の一つであると言えます。

LGBTQ +に関わるアート作品を調べていくと、全面的にそれらの要素を打ち出すのではなく、メタファー(暗喩)として忍ばせている作品が多いことに気がつきます。それは一つの作品に色々なモチーフを託している場合、LGBTQ +の側面からのみ語られるのを避けるためだと考えられます。世界の動きとしては同性婚や、結婚と同様の権利を認めたりという国や地域が増えてきてはいますが、憲法や法律が変わったからといって人々の心情まで変わったとは言えず、まだまだ偏見が無くならないのが現状と言えます。また逆に、アートを通じて人々の心情が変化し、それが社会現象となり、国を動かす運動にまで発展するケースもあります。こちらのインタビュー記事では、ベトナム戦争の際に撮影された一枚の写真が人々の心情を変化させるきっかけになったと例として挙げられています。

アートはLGBTへの”無関心”を打破できるのか?(https://life.letibee.com/sukiten-zeniyayu/

今回のブログでは自身のセクシャリティを隠すことなく作品に反映させてきた芸術家達の作品を紹介すると共に、変化しつつある社会と近年の動きもご紹介したいと思います。 

Rosa Bonheur(ローザ・ボヌール)(1822-1899) 

「馬の市」 1853年

フランスの写実主義画家、彫刻家で、動物の姿をありのままに捉えた作品を多数残しました。女性画家というのは当時非常に珍しかったのですが、代表作である「馬の市」で一躍有名になり、フランス史上初女性芸術家としてレジオンドヌール勲章を叙勲されました。彼女は同性愛者で「男装の画家」としても有名で、その作品は「男性的な逞しさ」に溢れているとみなされました。奇妙なことに、因習に強く縛られていた時代にあって、ローザの送った風変りな人生はスキャンダルとはなりませんでしたが、家畜の見本市に通うためにローザは男性の服装(より正確にはズボンの着用)の許可を警察当局に要求しなければならなかったという逸話が残っています。

Simeon Solomon(シメオン・ソロモン)(1840-1905) 

「ミティリニの庭園のサッフォーとエリンナ」1864年

イギリスの画家でラファエル前派の一員に数えられます。女性同士の同性愛の欲求を描いた絵画としては、西洋で最初期のものである可能性が高いと言われています。この作品は古代ギリシャの女性詩人であるサッフォーを題材にしており、「レズビアン」という言葉の語源はサッフォーの住んでいたレンボス島に由来します。ソロモンは複数男性との同性愛関係を持ったとして逮捕されたことにより、そのキャリアが絶たれ、長く歴史から忘れられていました。この他の彼の作品も題材は歴史、神話、宗教上の物語を描いていますが、根底に同性愛の色合いが流れています。この作品が描かれた頃のイギリスでは「反自然性交」に対する死刑が廃止され、刑罰が10年以上の懲役または終身刑に減刑されました。

George  Quaintance(ジョージ・クウェインタンス)(19021957年) 

「DASHING」1951年

アメリカの画家で「ゲイ美学のパイオニア」と称され、筋肉美を強調した絵画で特に有名になりました。「マッチョスタッド」のステレオタイプを確立し、後にご紹介するトム オブ フィンランドなどにも大きな影響を与えました。彼の代表作は1950年代に多く描かれており、この頃のアメリカはホモファイル運動(Homophile movement)と呼ばれる同性愛の権利を求めるオランダとスウェーデンで始まった運動が徐々に諸外国に波及し始め、その運動がアメリカにも波及してきた頃です。この運動はさらに日本を含む世界各国にまで広がり、1970年代中盤まで続きました。

Francis Bacon(フランシス・ベーコン)(1909-1992)  

「ジョージ・ダイアーの三習作」1969年

アイルランド生まれのイギリス人画家で 抽象絵画が全盛となった第二次世界大戦後の美術界において、具象絵画にこだわり続けました。20世紀最も重要な画家の一人とされ、現代美術に多大な影響を与えました。作品は大部分が激しくデフォルメされ、歪められ、あるいは大きな口を開けて叫ぶ奇怪な人間像であり、人間存在の根本にある不安を描き出したものと言われています。ベーコンは、恋多き人としても知られていて、生涯で5人の男性と深い恋に落ちました。3番目の恋人と言われているジョージ・ダイアーはベーコンの作品の中でたくさん描かれているため最も有名です。

Tom of Finland(トム・オブ・フィンランド)(1920-1991) 

「Untitled」1963年

本名トウコ・ラークソネン、フィンランドの画家です。ゲイを描いた作品など通してLGBTQ +の権利と社会受容を目指した社会運動を推進し、筋骨隆々でセクシーな肉体労働者や兵士、バイカーなどの姿は、アンダーグラウンドのゲイ・シーンで支持されるようになりました。アメリカでは1969年までに数多くの同性愛者団体と出版社が国内に存在するようになり、メディアに取り上げられることはありませんでしたが、国際組織が成立しつつありました。そして1957年、彼が送ったドローイングがアメリカのフィットネス雑誌『Physique Pictorial』の表紙を飾ったことをきっかけに、彼の作品は一躍海外でも知られるようになりました。

David Hockney(デヴィッド・ホックニー)(1937-)

「ドメスティックシーン」1963年

20世紀~21世紀のイギリスの画家で、現在はアメリカ合衆国・カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点として活動する芸術家です。1960年代よりポップアート運動にも参加し大きな影響を与え、イギリスの20世紀の現代芸術を代表する1人に数えられます。同性愛者である彼は積極的に自身のポートレイト作品内で同性愛の本質を表現しています。

Felix Gonzalez-Torres(フェリックス・ゴンザレス=トレス)(1957-1996) 

「Untitled」 (USA Today) 1990年

キューバ生まれのアメリカの美術家で、電球、時計、山積みにした紙片やキャンディーなどを使ったミニマルなインスタレーションや彫刻作品が一般的に知られています。彼の作品の多くは、エイズで亡くした恋人の永遠の不在によって逆説的に照射される生と、自分もエイズで死ぬかもしれないという死の予感によって解釈することができます。

Keith Haring(キース・ヘリング)(1958-1990) 

「Fear」1989年

ストリートアートの先駆者とも呼べる画家で、1980年代アメリカの代表的芸術家で、社会貢献活動を多く行ない、AIDS撲滅活動や恵まれない子供たちへの活動で知られています。特にキース自身がHIV感染者だったこともあり、作品を通じてHIV感染を防ぐメッセージを出すなどし、AIDS撲滅活動に積極的に関わリました。ヘリングが1989年に発表した《Silence = Death(沈黙は死)》は、1987年に結成されたエイズ患者支援団「ACT UP(AIDS Coalition To Unleash Power)」のスローガンが作品の題名となりました。

ヘリングが活躍した1980年代になると同性愛とHIVの関係が問題となり、それに伴ってLGBTQ +が前面に押し出されるほどそれを嫌悪する人たちも増えました。一部の若い活動家は「ゲイとレズビアン」の表現がより規範的な表現だとして、すべての性的少数者やジェンダー格差のある人々からの挑発的な表現としての「queer」(クイア)という言葉を使い始めました。

近年の動き

近年ではLGBTQ +をテーマにした企画展が美術館で開催されたり、博物館が新設されたりしています。ここから近年開催された大規模なLGBTQ +をテーマとした展覧会と、新設されたあるいはその予定の博物館をご紹介していきたいと思います。

2021年イギリスロンドンに新しく「クィア・ブリテン ナショナルLGBTQ+ミュージアム」がオープンする予定で、博物館のCEOジョセフ・ガリアーノはインタビューの中でこう述べています。

「LGBTの歴史はごく断片的にしか記録が残されていません。LGBTの中でももっとも表立って見える存在だったゲイ男性をとってみても、60年代より前の世代は高齢化していて、彼らの体験は失われつつあります。実際、多くはすでに知られることなく葬られた状態です。BAMEと呼ばれる人たち(ブラック、アジア系、その他エスニックマイノリティの総称)や女性、トランスジェンダーの体験となると、男性とくらべるとさらに重視されてこなかったため、語られていない話がたくさんあるんです」

展覧会

 ・2019-2020年

「SPECTROSYNTHESIS II – Exposure of Tolerance: LGBTQ in Southeast Asia」

タイバンコク芸術文化センター(BACC)(https://en.bacc.or.th/content/460.html)

・2017年

「QUEER BRITISH ART 1861–1967」

イギリステイト美術館(TATE BRITAIN)(https://www.tate.org.uk/whats-on/tate-britain/exhibition/queer-british-art-1861-1967

「The Other’s Gaze. Spaces of difference」

スペイン・マドリードプラド美術館(Prado Museum)(https://www.museodelprado.es/en/whats-on/exhibition/the-others-gaze-spaces-of-difference/e3ec04f9-d76d-4cdd-a331-246f192bcaf0

「光・合作用──アジアのLGBTと現代美術」

台北当代芸術館(MOCA)(https://www.mocataipei.org.tw/tw/ExhibitionAndEvent/Info/光%E2%80%A7合作用-亞洲當代藝術同志議題展

博物館

・ベルリン「同性愛博物館(Schwules Museum)」(https://www.schwulesmuseum.de/visit-us/?lang=en

1985年に開館し、ゲイの歴史を専門とする世界初の博物館としてスタートしました。現在はLGBTQ +全般に焦点を当てた作品を展示しています。

・イギリス「クィア・ブリテン ナショナルLGBTQ+ミュージアム」(https://queerbritain.org.uk/join-us

2021年にオープンの予定の博物館です。

まとめ

ごく一部ではありますが、LGBTQ +に関わるアーティスト達を紹介してきました。この他文学や映画、写真などあらゆる芸術表現を使ってLGBTQ +である自身のアイデンティティを表現してきた多くのアーティスト達のおかげもあり社会は少しずつ変わろうとしています。今後もLGBTQ +とアートの関わりに注目していきたいと思います。