コロナ禍で一変したアートの風景
新型コロナウイルスの感染拡大から早1年、ようやくワクチンができ、各国はみな自国内の感染状況を沈静化させるべく、国民へのワクチンの供給を行うなど、この状況を打破すべく動いている。これまで、かなりの期間にわたって人の流れ、金の流れが大きく滞ってきたが、その影響による芸術文化が被る被害もまた甚大だ。芸術文化という「公共のもの」も「あらゆる人の健康」というより上位の公共性を前にして、「公共のもの」としての文化の危機に瀕している。
この「公共のもの」としての文化の危機に対して、各国も支援策を打ち出している。ドイツのグリュッタース首相府文化メディア担当国務大臣は、昨年の3月11日、収入減に直面する文化施設や芸術家に対する大規模な支援を約束し、3月23日には500億ユーロ(約6兆円)の巨費を投じて、芸術や文化の領域も含む零細企業や自営業者・フリーランス向けに助成金や融資のカタチで、運営資金を提供する支援策を発表した。グリュッタース大臣は、「アーティストは社会にとって不可欠であるだけではなく、とりわけ今は、生きるために欠かせない存在だ」とも言っている。また、フランス文化省は、昨年の3月18日、領域別に存在する国立センターに設ける緊急基金を通じて、雇用維持のために支援策を打ち出した。さらに、25日には、10億ユーロを投じて、小規模・個人事業者に、1500ユーロ、場合によっては3500ユーロを支給する方針も打ち出された。その他、アメリカ合衆国では、連邦政府による空前の2兆ドルに緊急パッケージの一環として全米芸術基金(NEA)が非営利芸術団体を対象とした7500万ドルの緊急支援を打ち出した。
これらの先進国に対して日本はどうか。もともと日本では、文化に対する公的助成の絶対額が小さく、財政基盤の脆弱な小規模組織や個人が中心となって文化を支えているため、イベントの自粛や中止の影響はより深刻である。先進国の文化支援策がまとまりを見せ始めていた昨年の3月28日には宮田文化庁長官がメッセージを発表したものの、内容に具体策は盛り込まれずにいたが、昨年5月27日、日本政府は31兆9114億円に上る第2次補正予算案を閣議決定。文化芸術支援に560億円を計上した。2021年4月末には、すでに21年度に突入しているが、前年度の第3次補正予算を活用した施策である文化庁は新しい支援策「ARTS for the future」の要項を公開した。
芸術文化に対して各国はこういった支援策を打ち出されているものの、このパンデミックで一変した世界の中でアーティストとして生き抜くことは依然として厳しく、アーティストもアート関係者も政府などからの支援に依存することなく、自立していく必要性が増したのは明らかだ。
バーチャルギャラリーの実態
そんなコロナ禍で、自らの生き残りを賭け、ダイナミックな経営の舵取りを求められているのがアーティストが作品を展示、販売するギャラリーだ。変化が求められる中で、従来のリアルでの展示ではなく、バーチャルギャラリーで作品の展示をするギャラリーがますます増えている。
そこで今回、我々が話を聞いたのがアメリカのカリフォルニア州に拠点を構えるWorld Wide Art Promotionだ。World Wide Art Promotionは、世界中のアーティストの作品を多面的な宣伝に注力することを目的に、トーマス・タンバーグと妻のデスピナ・タンバーグが立ち上げた組織である。設立以降、出版やアートフェア・エキシビション、オンラインの3つの事業を展開してきている。
出版のWorld Wide Art Booksでは、世界中のアーティストを特集した毎年恒例のアートアンソロジーを作成し、それがやがて、私たちが生きている時代の世界中のアーティストの記録へと成長する本になっていく。
アートフェアやエキシビションのWorld Wide Artでは、World Wide Art Booksに参加したアーティストやオンラインのコンテストに参加したアーティストの作品を展示している。
オンラインのArtavitaでは、2010年からアーティストがポートフォリオを無料でアップロードすることで、巨大なアートリソースになるウェブサイトを作成しており、コロナを機に、アーティストの表現の場所を確保するためバーチャルギャラリーの展示も始めた。バーチャルギャラリーには、ヘッドセットなしでPCやスマートフォンから、Artavitaのオンライン上で、それぞれの作品の展示をクリックすることで、入ることができる。
トーマスが言うには、オーディエンスからはバーチャルギャラリーはその中を歩くことができるのでオンラインギャラリーよりもリアルさがあるとの声があるそうだ。
Artavitaのバーチャルギャラリーは大きく分けると3つの種類がある。1つ目は15くらいの作品を展示することができる小さいギャラリー、2つ目は絵画とは異なるビジュアルの作品を展示できる中ぐらいの大きさのギャラリー、3つ目は50以上の作品を展示することができる大きいギャラリーだ。トーマスにオンラインギャラリーとバーチャルギャラリーの役割はどう異なるのか尋ねたところ、バーチャルギャラリーは実際のリアルなギャラリーに近いため、ポートフォリオとして残らないが、オンラインギャラリーはポートフォリオとして残るので役割が異なるとのことだった。コロナ以降、Artavitaにとってこのバーチャルギャラリーは必要不可欠な取り組みとなっているので、今後もアーティストにこの新しい表現の場所を継続して提供していくそうだ。
また、Artavitaでは一般的なギャラリーとは競合せずにビジネスをやっていきたいと考えているため、Artavitaのビジネスモデルは、世界中のアーティストが無料あるいは少額の費用で自分の作品を多くの人々に見せることができる。そのプラットフォームとして成立させるために、参加するアーティストから参加費を貰い、参加する人数をいかに増やすかで収益を得るカタチにしているそうだ。このことは、一般的なギャラリーがコミッションと呼ばれるアーティストから中間でお金を取るビジネスのやり方とは異なっている。現在、Artavitaのプラットフォームには、2万人以上のアーティストの会員がおり、大きなプラットフォームとなっている。さらに、彼らはArtavitaのバーチャルギャラリーをギャラリスト、キュレーター、アーティストにも貸しており、コロナ以降の1年では、約1000人のアーティストとギャラリストがバーチャル展示をしているそうだ。トーマスは、25年このアートのビジネスをしているが、新しいことを常にやっていて、今後3年はフレキシブルさが大事になると話した。
コロナ禍によってより人気が出てきたアートもある。NFTアートに代表されるデジタルアートだ。トーマスは、デジタルアートの作品が増えてきたことで、作品を購入する人も増加し、オーディエンスがデジタルシステムに慣れてきたこともあり、今後、デジタルアートはより成長していくだろうとも語った。
これからのアーティストに必要な能力
話は移り、アーティストに必要な能力についての話題になると、トーマスはアーティストには2つの道があり、ひとつはギャラリーがアーティストをプロモーションする道で、これは数人のアーティストしか選ばれない。もうひとつはArtavitaのようなあまり費用がかからないプラットフォームを利用する道だと語った。
また、「アーティストが誰かが自分のことを見つけてくれると期待するのは現実的ではない。ビジネスで商品をプロモーションするように、アーティストも自分の作品を売り込んでいく必要がある。今のアーティストもピカソやダリのように上手くプロモーションしなくてはいけない」と彼は強調した。「しかしながら、かなり多くのアーティストがその必要性に気づいていないため、Artavitaはそういったアーティストたちのプロモーションを少ない金額を支払ってもらうことで担っており、そこに参加しているアーティストが自分のポートフォリオへのアクセスが増えることで、人気となっていくことを目指すことができる、アーティストにとってintention markとなるプラットフォームだ」とも彼は語った。
コロナ禍で一変したアートの風景。
しかしながら、このパンデミックを機に、アーティストの世界の住人もどのビジネスとも同じように自らを商品としてプロモーションしなくてはいけないという普遍的な事実に再度、向き合うことが求められている。
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