アーティストの活動を企業の活動に置き換える、その意義とは?

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昨今、日本のビジネス界隈では、アートの重要性が強調され、ビジネスにアート的な思考を取り入れようとする動きが見られるようになっているが、一方で、アート側がビジネス的な思考を取り入れる動きはあまり見られない。
そこで、今回、アートサバイブログでは、アーティストの活動を企業の活動に置き換えることで、どういった意義が生まれてくるのかということをアートサバイブログの代表であり、現代アーティスト・彫刻家の大成哲の活動を例に挙げながら、見ていこうと思う。
また、この記事を書くに至った背景には、筆者がデザイナーとして、企業のコンセプトメイキングに関わった経験から、そのコンセプトメイキングの対象をアーティストにしたらどうなるのかといった好奇心に近い問いがあったからでもある。

始めに、この記事を読む方に伝えておきたいことは、アーティストといっても、一概にこういった存在であると定義づけることは難しく、その存在をわかりやすく、言葉を用いてパッケージ化できないので、彼らのコンセプトや作品が内包する複雑性することは限りなく不可能な行為であるということだ。
また、アーティストの中には、言語よりも、他のビジュアルや身体表現といった得意な表現の方法を持つ人も多くおり、今回、試みることは、言語化することが前提なので、こういった方々に向けた記事ではない。これらのことを踏まえて記事を読んでいただきたい。

アーティストの活動を企業の活動に置き換えるプロセス

では、ここからはアーティストの活動を企業の活動に置き換えるプロセスを見ていこう。
その具体的なプロセスは以下の通りだ。

1.アーティストの情報(コンセプト、作品)を洗い出す
2.情報を整理し、キーワードを抽出し、キーワードに関連する概念をリサーチする
3.キーワードや概念を基に、構造化していく
4.必要ならプロセスの中で、アーティストと対話していく
5.ビジョン、ミッションを構築していく

1.アーティストの情報(コンセプト、作品)を洗い出す

まず、始めに行うのは、アーティストがこれまで、制作してきた作品とコンセプトを洗い出すことだ。この段階で重要なことは、情報を洗い出しながら、アーティストの活動に、一貫性を感じられるかどうかということ。

2.情報を整理し、キーワードを抽出し、キーワードに似ている概念をリサーチする

 情報を洗い出したら、次に、行うのが、キーワードを抽出することだ。アーティストが制作してきた個々の作品のモチーフは異なるものの、 何かしらの共通点、キーワードがあるので、それを抽出していく。そして、抽出したキーワードをもとに、それに関連する概念をリサーチする。ここでリサーチする概念は、SDGSなどのビジネス用語とアカデミックな学術的用語や哲学用語だ。アーティストの活動を論理補強するようなイメージで、概念をリサーチしていく。

3.キーワードや概念を基に、構造化していく

ここまでで、キーワードや概念を出すことができたら、それを構造化していく。この際、抽象度をイメージしながら、構造化に取り組んでいくことがポイント

4.必要ならプロセスの中で、アーティストと対話していく

言葉の扱いに長けたアーティストもいるので、そういったアーティストとは対話を行い、より、構造化しているものを一緒に整理してことが望ましい。

5.ビジョン・ミッションを構築していく

構造化したものをベースにして、作品の上位概念として、ビジョンを構築し、そこに向かっていく上で、アート活動やその他の活動をしていることを客観的に認識する。ここでのビジョンは、アーティストが目指す世界観、ミッションは、その世界観を目指すためにどういった活動を行なっていくのかということである。

ここまでのプロセスを経ることで、アーティストの活動を企業の活動に置き換えることが可能となる。

具体例の紹介ー現代アーティスト・彫刻家 大成哲の場合

ここからは、現代アーティスト・彫刻家 大成哲のアーティスト活動を企業の活動に置き換えていったプロセスを紹介しようと思う。

1.アーティストの情報(コンセプト、作品)を洗い出す

まず、これまで大成が制作してきた作品の資料を読み込み、書き出していった。この際、1つの作品のコンセプトが他の作品のコンセプトとも共通点がないか意識していた。

2.情報を整理し、キーワードを抽出し、キーワードに似ている概念をリサーチする

次に、書き出したもので、共通点があるものは、キーワードとした。大成の場合だと、変形していく過程プロセスを見せる、物質として等価、ものが循環していくサイクルなどがあがり、そのキーワードに関連する概念をリサーチし、もったいない、サーキュラーエコノミー、人間性の回復、シェアの概念、自然(じねん)、モノ派、ダダイズムといった言葉が出てきた。

3.キーワードや概念を元に、構造化していく

概念やキーワードが出揃ったので、それをもとに構造化していき、作品の上位概念として自然(じねん)があり、その他の概念やキーワードも社会的な文脈、美術文脈、個人の文脈に位置付けていった。

4.必要ならプロセスの中で、アーティストと対話していく

今回、このプロセスは飛ばした。

5.ビジョン、ミッションを構築していく

これまで整理し、構造化したものをベースにした時に、ビジョンとなりえるものが、自然(じねん)であったため、自然(じねん)をビジョンとして設定し、そこに向けてアーティストとしての活動やその他の活動があると設定した。

このプロセスを実際にやってみて感じたのは、一見、全く違うようにみえる、企業とアーティストにもある大枠があった上で活動をしているという共通点があるということと、そして、両者とも社会に存在している主体であり、アーティストにとっての作品は企業にとってのサービスとも言えることを認識した。その上で、このアーティストの活動を企業の活動に置き換えることで、アーティストは、これまでの自身が制作してきた作品を整理すると同時に、 アーティストとしての社会における存在意義や テーマがアーティストを知らない人にも伝えることができるといったメリットが生まれると感じた。
また、多くの人がアートを難しいと敬遠する現状を考えれば、アートという複雑への入り口として、アーティストの活動を企業の活動に置き換えた概念図は、アーティストとオーディエンスを橋渡しする役割を担ってくれるので、筆者は、そこに置き換えることの意義を感じている。そういった意味では、こういった概念図が、展覧会でキャプションと一緒に作品の近くに置いてあれば、オーディエンスにアーティストの作品を理解しようとするキッカケ、アートへの入り口として機能しうるかもしれない。

言葉では捉えきれない意味世界

一方で、アーティストの活動を企業の活動に置き換えることにはデメリットも存在する。それは、言葉で記述するがゆえに、抜け落ちてしまう意味が生じてしまうことだ。元来、アートはデザインとは異なり、ひとつの作品であっても伝えたいメッセージがひとつであることは少なく、受け手によって、様々な解釈をされる。ゆえに、言葉によって整理していく中で、その解釈の可能性を狭めていってしまう危険性を当然、孕んでいる。そして、アート自体が見えづらい知を掬い上げる性質を有しているので、言葉を紡ぎ、構造化していくということは、その意味世界を簡素でわかりやすく、パッケージ化されたものにしてしまうことに繋がってくる。

デザインにおけるブランドエクスペリエンス

冒頭で、話をしたが、この記事で取り扱っているアーティストの活動を企業の活動に置き換えること(アーティストのコンセプトメイキング)の企業を対象としたコンセプトメイキングが、ブランドエクスペリエンス、ブランディングと呼ばれるものだ。このブランドエクスペリエンスのプロセスは、アーティストの活動を企業の活動に置き換えるプロセスと似ている。それは以下の通り。

1.経営層へのインタビュー
2.インタビューをもとにキーワードを抽出し、キーワードに似ている概念をリサーチする
3.キーワードや概念を基に、構造化していく。
4.プロセスの中で、経営層と対話する
5.ビジョン、ミッションを構築していく。

企業を対象としたコンセプトメイキングは、アーティストのコンセプトメイキングとは異なり、元々、アーティストのようにアウトプットしたりするのが得意な人が少ないというのもあり、経営者や企業の歩みから、どれだけ多くの情報を引き出すことができるかが重要だ。

最近では、日本で唯一デザイン会社として上場しているグッドパッチもブランドエクスペリエンスチームを立ち上げるなど、社会にとってブランドエクスペリエンスの価値は高まっている。グッドパッチのブランドエクスペリエンスの記事はこちら

筆者自身、アーティストのコンセプトメイキングと企業のコンセプトメイキングを両方行ってみて、前者では、すでに形成されているアーティストの意味世界を、簡素化することなく、複雑性を保ったまま、伝えるために、アーティストの活動のコアを捉えることを意識していたのに対して、後者では、自分の言葉をアウトプットすることに慣れていなかったり、アウトプットしたとしても、それらがあまり整理されていない場合があるので、その整理をしていく、本質的な要素を掬い上げて、磨き上げることが必要だなと感じた。

終わりに

この記事を書くにあたって、筆者が思っていたことは、アーティストとはいえ、社会の一構成員であり、自分の活動を他者に対して、伝達する必要性が、本人の意志があろうと、なかろうと生じてしまうから、そのためのツールはあるに越したことはないという考えだった。しかし、実際に、アーティストという存在は、社会性に対して意識が向っておらず、社会と距離を保つライフスタイルを送る人もおり、それはそれで良いのかもなと思えてきたりもしている。おそらく、筆者がデザインをしているからこそ、提案先を気にせず作品を制作する行為そのものに没入することに、若干のそれでいいのかという考えを持っているのがその要因な気がしている。デザイナーと言っても、いろんなタイプが存在しているように、アーティストもまた、いろんなタイプが存在する。そのアーティストの中でも、言語化する能力に長けた人、そして、言語化することに関心がある人に今回のアーティストの活動を企業の活動に置き換えることの意義が伝わっていれば筆者としては嬉しい。

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