〈後編〉“アーティストの新しい成功の形〜パトロンをつくる〜’’サブスク型アートパトロンサービスって一体何?

アート思考

~株式会社IDEABLE WORKS HACKK TAG代表寺本大修さんインタビュー~

今回は前編後編と2記事にわたって去年新しくスタートしたサブスクリプション型アートサービス「株式会社IDEABLE WORKS HACKK TAG」(アイデアブルワークス ハックタグ)の代表である寺本さんにお話を伺います。

まだ前編を読んでない方はこちらをどうぞ

・アーティストを支援するサービスを運営する上で楽しいこと、大変なことはどのようなことがありますか。アートだからこそ感じる業界の独特なものは何か感じますか?また、外からはわからないジレンマや葛藤などがあれば教えてください。

まだまだ小さなサービスですが、支援が入ったときにアーティストの方が本当に喜ばれていたのが印象的でした。これまで身近にいたファンがスーパーファン(支援者)に変わるという体験は我々のとっても感動でした。

逆に大変なことは、スーパーファンになる可能性を持ったファンをいかに発見するのかというところです。いるのは分かっているのに、どこにるのかきちんとつかめていません。現在は様々な仮説検証を行っています。何れ我々独自のスーパーファンの発見方法を確立したいと思っています。

支援者の方に話を聞いてみると、アーティストに対して支援していることはあまり悟られたくないし、認知をされたいわけではないと考えている方もいらっしゃることが分かりました。では何が支援者のモチベーションになっているのかというと、応援しているアーティストが成功するかしないかという「不確実な間」が面白いらしいのです。自分の支援に対してリターンがどのくらいあるのかわからない、答えがないハラハラ感を共有するという状態をHACKK TAGでは意識的に作っています。

また、アーティストにとって安定ということが必ずしも素晴らしいことなのかという疑問もあります。HACKK TAGの月額で支援を受けるというサービス構造では、アーティストがベーシックインカムを得ることでアーティストとして堕落してしまうとか、緊張感がなくなって制作に必要なインスピレーションを得ることができないことが危惧されることもあります。それに対して我々はアーティストにしっかり自分のファンを認識してもらい、「スーパーファンの数=自分のアーティストとしての価値」として認識してもらうことで、ファンの気持ちに応えるように自分の活動を頑張るきっかけになるよう呼びかけています。しかしアーティストの皆さんはもちろんですが皆様強烈に独自の世界観をお持ちです。この世界観を大事にすることとファンサービスという考え方にまだ溝があると感じています。

・HACKK TAGが今後展開していきたいサービスはどのようなものがありますか?

アーティストは自分のファンについてしっかり認識できていないと感じることが多いです。そこをもっとわかりやすくするために、HACKK TAGのブランドロゴをQRコードのようにして、スマートフォンでかざすだけでその人のHACKK TAGのアーティストページに飛ぶことができるというサービスを作りたいと考えています。これによって、例えば今まで展覧会で芳名帳に名前を書いてもらっていた行為が、「HACKK TAGを読みこんでください」という新しいコミュニケーションの形になります。そこから自分の支援ページをフォローしてもらったり、実際に支援してもらうことでアーティストも自分のファンの存在がより分かりやすくなり、管理もしやすくなると思います。

このブランドロゴの図形を組み合わせることでQRコードのように読み込むことができる

また、今後は実際の作品ではなく、制作過程をあらゆる方法で多産して共有するという方法も挑戦したいと思っています。

現在実験的に行っているのは「プロセスエコノミー」といういわゆる「過程公開」をする取り組みです。通常一つの作品を作るには多くの時間を必要としますが、作品の制作過程や考える工程を動画など多産できるメディアで共有するという体験を作っていきたいと思っています。

これによってアートがよりオープンで分かりやすくなると思います。実際の作品ではないですが、作品の一部としてアーティストの考えや制作過程を所有することで、そのファンはそのアーティストのことをもっと応援したいと思うようになり、さらにより多くの人にその存在を知らしめたいと思うはずです。そうするとアーティストの発信力が何倍にもなり、結果的にHACKK TAGの存在を広めることにもなるのではないかと思っています。この方法は、音楽家や舞台家など物質を持たないアーティストにも応用できます。最終的には、すべての才能を支えるPFになりたいと考えています。芸術家を皮切りに多様な才能へと展開していきたいです。

今後のアーティストに期待することはなんですか?

今後アーティストに期待することは、小さく強いコミュニティを意識的に持つということです。例えばSNSでたくさんフォロワーがいても、その中で実際に自分のことを熱狂的に応援してくれている人はそこまで多くはありません。そこで我々は1万人のフォロワーを集めるより、熱狂的に応援してくれる「100人のスーパーファン」にフォーカスを当てることの方を重要視しています。この小さなコミュニティをいかに意識的に持つことができるかが、アーティストが生き延びる上でも大切だと思っています。

将来アーティストが小さなコミュニティから脱却して大衆向けの価値を打っていけるようになり、HACKK TAGのサービスを卒業してもらうことは喜ばしいことだと思っています。そしてHACKK TAGから巣立ったアーティストがもう一度、今度は支援者としてこのサービスに戻ってきてくれることを我々は期待していますし、そういうサービスを目指しています。

どのような人にソーシャルキュレーターになってほしいと考えていますか?

※ソーシャルキュレーター(HACKK TAGの所属アーティストを発掘、登録してその活動を応援する役割の人)

我々の考えるソーシャルキュレーターには2つのパターンがあります。1つ目はもともとアートに精通している人を少数精鋭で集めたプロレベルのキュレーター、もう一つはアート愛好家やキュレーションをやってみたいと思っている人たちを集めたキュレーターです。

プロのキュレーターに関しては、将来的にHACKK TAGのプロキュレーター組織を日本全国や海外に作っていきたいと思っています。HACKK TAGとして今後メディアを作ることも考えているので、現地のキュレーターしか知り得ないようなローカルなアート情報を各々の場所から発信していただけたらいいと考えています。

プロレベルではなく、アート愛好家やキュレーターの卵のような人たちには、アートのことを語りたいという欲求を満たす場として利用してもらいたいと考えています。先にも述べた通り、アートはクローズで難しく、アートを語ることが難しいと感じている人が多いように感じます。そこで、HACKK TAGという場所が好きなアーティストや作品の魅力を楽しく語れる場所になればいいと考えています。その延長線上で発信量が増え、アーティストの魅力がさらに広まることを期待しています。キュレーションをよりライトでソーシャルなサービスとして利用してもらうことによって、アートを楽しみ、アーティストも知名度が上がるWinWinなサービスが作れると思います。

・最後に起業するための勇気、意気込み、もしくは必要なスキルやアドバイスがあればぜひ教えてください。

もともと前職の経験から起業のノウハウや知識は持っていて、大学で事業開発について学生に教育していく中で自分自身も起業することに興味を持ちました。父親の急逝から実家の家業である印刷会社を継ぎ、尚且つ新しいことにチャレンジをしようと始めたのが、アーティストとコラボレーションして箔押し印刷の技術を使った作品を作ることでした。その中で作ったレコードジャケットが好評で、大衆向けでなくても本当に価値があると思ってもらえる作品なら需要を生み出すことができると気がつき、アートビジネスに可能性を見出しました。

そんな中、実力もあり評価もされているが、実は生活するのに一杯一杯なアーティストと、住宅環境などお金以外の様々な事情から作品を買うことができないファンの間に支援金をやり取りできるシステムを作ったのがHACKK TAGの始まりです。

実家の家業である印刷会社

勇気があって行動したという実感はなくて、一歩足を踏み出してみようという思い切りで進み始めました。一歩進むと二歩目が見えてくる、二歩目進むと三歩目が見えてくるといった感じです。

今のモデルも正解かどうか分かりませんが、行動して、事実を理解して、変更していく成長スピードをどれだけ高速化できるかが重要だと思います。実は今のHACKK TAGの形も事業を始めた当初とはやること自体は変わっていませんが、手段は全然違ったものになっています。そしてこれからも変わっていくと思います。変えるべきものは柔軟に変え、それを成長とすることでより良いビジネスモデルを目指していきます。

・まとめ

寺本さんと話していく中で、特に印象的だったのは「アートが楽しいものだという気持ちをもっとライトに共有したい」というお話でした。確かにアートはもともと楽しいもののはずなのに、いつからか難しくて堅苦しい印象になってしまったようにも感じます。「アーティストは成功するのが難しく、生活が苦しいのが当たり前」というのも知らぬ間に抱いてしまっていた固定概念ですが、美術の外の世界からこれらを変えようとしてくれる寺本さんのような存在は非常にありがたいと感じました。

このインタビューをさせていただく中で、寺本さんのアートやHACKK TAGのサービスにかける情熱の強さをとても感じました。ただビジネスとしてアートに携わるのではなく、本気でアーティストのことを想い、アート業界をより良くしようとしている寺本さんの姿勢がよく伝わる時間でした。アートの世界で生き続けるには寺本さんのように新しい視点を持ち続けることと、アートやアーティストに愛情を注ぐこと、そしてそれを続ける体力と気力が大切なのだと思いました。

この記事を読んでくださっているアーティストの方は、今後HACKK TAGのおかげで新しい成功スタイルを得ることができるかもしれないし、アート好きな方々は新しいアートの楽しみ方が増えるかもしれませんね。